2025年5月5日月曜日

CNCでコーヒーを淹れる

 大変ご無沙汰しております。

「既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する」ことで研究を重ねてきましたが、どうやってもコスト的に成立しないため、このブログから遠ざかっておりました。

5年間、色々なことがございました。

お世話になった会長が引退されました。本当に親身になってくださり、色々なことを学びました。息子さんである社長さん、専務さんからは、興味はあったけれどコスト的にうちで受けることができないだろうと思い、あえて話に入ることはしなかったとおっしゃられました。私も、きっとそうだろうなと思っていたので、あえて積極的にお話することはありませんでした。ただ、社長さん、専務さんからは、これからもいつでも遊びに来て欲しいと言葉をかけてくださいました。本当にお世話になったのに、製品化という形で恩を返せないのが心苦しいです。

また、京セラOBで創業メンバー方数名と知己を得ました。F101相似形の刃を、セラミックでいくらで作ることができるか相談したところ、金型が数百万円の単位の金額になるとの返事でした。社員を紹介することはいくらでもできるが、あまりに金額の差が大きすぎるので、これを無理に通すことはできない、趣味人さんの力になる事ができず、申し訳ないとのお返事でした。皆さん、かなり親身になってくださったのですが、どうしようもありませんでした。

これがダメ押しになりました。


ただ、最近希望となるような製品が現れました。シグマBFです。7時間かけてアルミからの削り出される本体に、皆さんの熱い視線が注がれるのを見て、突き抜けて良い物を作れば可能性があるのかもしれないと思いました。


今回公開する、CNCでコーヒーを淹れる試みは、5年ほど前に作っていたのですが、公開する気力もなくなり、放っておいたものです(自宅ではずっと使っています)。ただ、先日杣コーヒーさまのHPを偶然拝見する機会があり、レシピの自動化、科学的な(=根拠に基づいた再現可能の意味)抽出について、素晴らしい検証をされていることを知りました。京都に行く機会があったので、CNCでコーヒーを淹れる機器を作ったことをお話ししたところ、大変熱く語る時間を過ごしました。

CNCでコーヒーを淹れる機器を公開することで、同じ思いを持った方の励みになればと思いましたので、公開することにします。

https://youtube.com/shorts/nGbs1CwaeJk?feature=share


考え方の前提(以下、お世話になったキサゲ加工の名人でもある会長がおっしゃっていたことです)

・コンピュータ制御の機械は、手作業ではできない形状を作り出すことができる。

・名人は手作業で最高の技術を駆使できるが、常に最高の技術を再現できるわけではない。

・したがって、コンピュータ制御は手作業よりも、細かい動き、再現性で優れている。

私が行ったこと

・「バリスタ」の動きを再現する

お湯がコーヒー豆に注がれる箇所、水量、時間、温度を再現すればよい。腕の動きは再現する必要はない(※ここで再現した動きは、以下に述べる松屋式を再現しているわけではない)。

エンドミル(ドリル)が高さのある素材を削るのとは違い、コーヒー豆の「下(奥)までお湯を到達させる」という動きはないため、Z軸の動きは再現する必要はない。

XY軸の動きを自由に制御、再現するため、CNCを使う。

・液量を一定に保つ

お湯を細く注ぐと良いと言われているが、腕の傾きを一定に保って注ぐのでは、必ず、「ブレ」が生じる。傾きで制御するのではなく、どんな姿勢でも注ぎ口のから出る流量をコントロールできる方式の方が、原理的に優れている。

コスト、加工性の面から、保温性のあるプラスチック製カップの底にコックをつける。

課題

・カップに貯めたお湯を、少ない流量を時間をかけて抽出するため、温度低下が発生する

・Z軸の動きをなくしたため、意図したタイミングで温度を変化させる注ぎ方が出来ない

解決策

・抽出後にお湯を足す抽出方式を取り温度問題を解消できる、本機器と相性が良い松屋式ドリップを採用する。

松屋式ドリップ:一杯の二倍の量の豆を使い、一杯の半分の量を抽出(この時点で倍の濃さ)、足りない分量のお湯を足して一杯分とする。これにより、豆のエグミなどが出る前の状態で、抽出を終えることができるため、よりおいしいコーヒーを味わうことができるという抽出方法。

追加点

コーヒー粉の撹拌を抑える点滴注水を採用する。

※点滴注水については、フレーバーコーヒー様にお邪魔したときに、松屋式だけでなく、熱くその長所を語られ、強く印象に残っておりました。松屋式ドリップは、点滴注水の低温問題が解決されるため、より相性が良いと思います。

動画は松屋式ドリップの蒸らし工程にあたります。


動画の20、10というのは、中心点からの距離(㎜です)。だいたい1杯しか入れないので、コーヒー粉のある半径20㎜の範囲に注水するようコードを書きました。

コーヒーの味がわからないと公言する私が言うのもなんですが、大変おいしいコーヒーを淹れることができます。というか、名人が行っている方法を、そのまま再現できるわけで、おいしくならないわけがないです。