2015年12月31日木曜日

このミルが存在する意義、土俵はいったいに何か

 昨年末、コーヒーミルに対する自分のスタンスを書きましたが、今年もまた書いてみたいと思います。
手に入れた部品群 すべて国産です


 このミルが存在する意義、土俵はいったいに何なのかを考えてみました。

 価格、品質などで勝負するのか。

 価格はどう考えても、勝負になりません。以前研究したHARIO製のミルは、あれほどの高品質でありながら、3000円も出せば手に入るのです。個人だから利益を削ってでも安くできるといった話ではありません。そもそもシャフト1本を加工するだけで、あっという間に3000円に達してしまいます。価格での勝負などお話になりません。

 品質はどうでしょう。もちろん「過剰品質」としますが、現代の日本で手に入る部品は、写真を見てもお分かりの通り、そもそも品質が良いのです。これから作る特注品はさらに良いものにし、見る人が見れば明らかに良いものにしますが、現代の工作機械で作る限り、工業製品として、圧倒的な差がつくものではないと思います。

 では、このミルが存在する土俵は何か。

 私は、下町ロケットや、超絶スゴ技などに出てくる、偉大な技術者、職人を頂点に頂く、広いすそ野を持った、モノづくりの山々のふもとにいると思っています。

 今回作るものは、ロケット部品の精度を求められるものではありません。しかし、お世話になっている会長をはじめとする、モノづくりに携わる方々のネットワークは、明らかに高品質の製品を世に送り出しています。私は間違いなく、偉大な山々を支える一員におり、誇りを持って、この仕事に当たっています。

 下町ロケットを見ながら、何度も頬を熱いものが伝わりました。

 今回つくるミルは、その偉大な山々を構成する人々を支える糧となるものです。すべての部品を国産で賄い、この国でモノづくりが続けられるよう、物資、金銭面から支えていきます。まことにわずかで、支えるなどという言葉が恥ずかしくなるような量ではありますが、それでもほかの国で作れば、間違いなくその分はマイナスになるのです。

 このミルを構成するのは、誠の志です。

 必要な場所に、必要なコストをかけた部品を使います。同じような製品があれば、高くとも国内の雇用に結び付くものを選びます。ただそれだけではありますが、誠実なモノづくりに徹します。

 本田宗一郎氏が掲げた基本理念に「三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)」.というものがあります。以下に全文を引用します。

 私は吾が社のモットーとして「3つの喜び」を掲げている。即ち3つの喜びとは、造つて喜び、売つて喜び、買つて喜ぶという3つである。
 第1の造る喜びとは、技術者のみに与えられた喜びであつて、造物主がその無限に豊富な創作欲によつて宇宙自然の万物を作つたように、技術者がその独自のアイデアによつて、文化社会に貢献する製品を作り出すことは何物にも替え難い喜びである。然もその製品が優れたもので社会に歓迎される時、技術者の喜びは絶対無上である。技術者の一人である私は斯様な製品を作ることを常に念願として努力している。
 第2の喜びは、製品の販売に当る者の喜びである。吾が社はメーカーである。吾が社で作つた製品は代理店や販売店各位の協力と努力とによつて、需要者各位の手に渡るのである。この場合に、その製品の品質性能が優秀で、価格が低廉である時、販売に尽力される方々に喜んで頂けることはいうまでも無い。良くて安い品は必ず迎えられる。よく売れるところに利潤もあり、その品を扱う誇りがあり、喜びがある。売る人に喜ばれないような製品を作る者は、メーカーとして失格者である。
 第3の喜び、即ち買つた人の喜びこそ、最も公平な製品の価値を決定するものである。製品の価値を最も良く知り、最後の審判を与えるものは、メーカーでもなければ、デーラーでもない。日常製品を使用する購買者その人である。「ああ、この品を買つてよかつた」という喜びこそ、製品の価値の上に置かれた栄冠である。私は吾が社の製品の価値は、製品そのものが宣伝してくれるとひそかに自負しているが、これは買つて下さつた方に喜んで頂けることを信じているからである。
 3つの喜び、これは吾が社のモットーである。私は全力を傾けてこの実現に努力している。

引用ここまで。

誠にシンプル、単純明快にして、余すところなくモノづくりの本質を語っています。

 このミルを持たれる方は、間違いなく、偉大な山々を構成する一員です。その喜びを皆様と共有したいと思います。

2015年12月6日日曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(5)

 ガラス製受皿の試作品ができました。

 型から起こした特注品です。既成のビンを流用することも考えましたが、やはりどうしてもカッコいいものができません。硝子会社の工場長と何度も打ち合わせをして、やっと納得のいく形を作ることができました。

 粉が残りにくく、水洗いが楽で、ふき取りやすい形状を追求しました。今まで、さまざまなミルを使い、清掃してきたので、問題点などは良くわかります。美観、質感の問題もさることながら、静電気対策の観点からガラスは必須と考えます。

 ガラスは、当ブログの考える「良い手動式ミルの条件」の4点を満たします。

 第一条件:古い豆、粉がミルの中に残らないこと。

 第二条件:(分解・)掃除(・組立)がしやすいこと。

 第四条件:周囲を汚さないこと。

 第七条件:満足感の高いこと。

(トータルで)持ちやすい形状を重視したため、容量だけは少ないですが、今までの経験から、手動式のコーヒーミルで一度に何杯分も挽くことはなかったので、まず問題にはならないと思います。

ガラス受け皿 特注です
試作品のため、口の部分にバリや、肉厚部分にヒケができていますが、一発目としては大変良い結果が出たと、工場長が喜んでいました。これから金型を修正して、さらに良いものにしていきます。

2015年11月21日土曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(4)

 いつも大変お世話になっている機械加工会社の会長に、図面をお見せしたところ、これではせっかくのZZ型高性能ベアリングが、本来の機能を発揮できないとのアドバイスをいただきました。
  •  ベアリングというのは、ちゃんとした寸法の穴に、ちゃんと固定しないと意味がない。
  •  下のベアリングを固定しているのは、樹脂製の部品ということだが、これでは動いてしまう。
  •  本体に2個所はめれば、樹脂製の部品についたベアリングは、機械的に意味がない。
 機械を扱う方には、あたりまえの話のようなのですが、今まで見てきた部品は、もっと自由度が高かったので 気が付きませんでした。いただいたアドバイスの通り、青丸部分のベアリングをなくし、赤丸の部分にベアリングを固定することにしました。


ベアリングが機能するように設計を変更
会長のおかげで、挽き心地がはるかに良くなる可能性が出たばかりか、刃の下にベアリングを配置すると、第一条件を満たさなくなるという問題が解決しました。

 しかし、ベアリングが「固定されていない」にも関わらず、F201改があれほどスムースに動くということは、今までどれほど軸がぶれていたのか、考えさせられるものがあります。

 なお、スタビライザー(薄茶色の部品)を廃止すれば第二条件も満たすことが可能になりますが、外刃(黄色の部品)を本体に固定しないといけないのと、本体の材質をアルミの削り出しで考えているので、廃止すると本体と受け皿の間にコーヒーの微粉が入り込んだ際、本体に「カジリ」が発生してしまう可能性があるため、残すこととします。

++ 会長のこと ++++++++
 今日はお世話になっている方のことを書きます。

 今まで何度か職人の方と書いてきましたが、ご自身が、職人ではないとおっしゃるので、会長と書かせていただきます。

 機械修理からキャリアをスタートし、キサゲの名人でもある会長は、手動のフライス盤・旋盤・ボール盤を使って、目の前で試作品を作って下さいます。刃物も使いやすいように、自由自在に加工し、作り上げます。今時、こうしたことをして下さる工場は少ないのではないでしょうか。

 会長は大変温厚な方です。職人というと気難しいイメージがありますが、決してそんなことはありません。段取りの時など、素人の私が「これは何をしていらっしゃるのですか」といった不躾な質問に対しても、丁寧に教えて下さいます。

 「バリを取ったり、穴をあけるだけといった、大した作業はしていないけれど、段取りに時間がかかるんだよ」 

 作業1に対して、段取り8~9といった感じでしょうか。特に測定にかける時間、測定機器の豊富さは目を見張るほどです。

 「段取りに時間がかかるというけれど、結果的には、それが一番早いんだよ。手を抜くと、製品の不具合で戻ってきたりして、結果的に時間もかかるし、信用もなくなっていく。」

 会長はいつも、重みのある言葉をおっしゃいます。

 会長のお話は、いつもとても楽しく、ついつい長居をしてしまいます。経験豊富な会長は、どんな加工上、設計上の疑問を聞いても、即座に解決策を示して下さいます。しかも、機械修理の経験がおありなので、壊れやすい箇所や、その補強方法まで示してくださるのです。

 仕事の姿勢も、日本企業かくあるべしといったものです。

「同じ図面の製品があっても、うちで作ったものは、見るだけですぐわかるよ」
「納品先に持って行っても、『ここの製品は丁寧にできているから、ちゃんと扱わないといけないよ』と、相手も注意して大事に扱ってくれるものだよ」

 そうやって、似たような仲間でお仕事をして、それがさらに良い製品を作ることにつながっていく・・・。会長と接していると、私にはそれがよくわかります。

 私の作るミルは、間違いなく、そうした方々のネットワークの上で作られています。

2015年11月14日土曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(3)

  設計を進めているミルですが、当然のことながら、当ブログの考える「良い手動式ミルの条件」を満たす構造にしていきます。



 第一条件:古い豆、粉がミルの中に残らないこと。

 第二条件:分解・掃除・組立がしやすいこと。

 第三条件:挽き心地が軽いこと。

 第四条件:周囲を汚さないこと。

 第五条件:収納しやすいこと。

 第六条件:意図した粒度で挽けること。

 第七条件:満足感の高いこと。





いきなり残念なお話なのですが、刃の下にベアリングを配置すると、第一条件・第二条件を満たさなくなります。

赤丸の部分に粉が付着します

  第一条件:古い粉がミルの中に残らないことですが、ベアリングを固定するための「スタビライザー(薄茶色の部品)に、どうしても粉が付着します(画像、赤丸の部分)。わずかな量ではありますが、「部品がない」ミルに比べれば残るのは事実です。



  第二条件:分解・掃除・組立がしやすいことも、スタビライザーを本体に固定するにはネジ(赤い部品)が必要です。もう少し、スペースに余裕があればなんとかなるのかもしれませんが、少なくとも、ハリオのMSS-1のように、何の道具も必要とせずに分解・組立ができる構造になりません。

大変残念ですが、上下にベアリングを配置するのは、「大前提」と言っても過言ではない構造条件なので、ここだけは仕方がないです・・・・・。

2015年11月1日日曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(2)

 設計を進めます。実物が手に入り、うれしくなったので徹夜で、75mmに再設計した本体に、今まで設計してきた刃を組み込んでみました。

 構造的に、未確定な要素があり、詰め切れていないのですが、この方向で行きたいと思っています。

断面図 3DCADで設計してみました

緑色の部品がベアリングです。F303、F201改での経験をもとに、上下をZZ型のベアリングで支えます。

 上部ベアリングを本体に固定することで、F201改で得られた、あのなんとも言えないスムースな挽き心地を、はるかに上回る感触を、実現したいと思います(F201改では、上部ベアリングは単に、はさんだだけでした)。

 前回のモックアップもそうですが、実際に手に持った時の感触を知ることができるのは、モノを作る上で非常に大事なことです。今回も、F201改のスムースな感触を超えるまで、好きなだけ作りこむことができます。

 自己紹介にもある通り、「過剰品質」を目指します。

2015年10月31日土曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(1)

 既存のミルの欠点を取り除いたコーヒーミルの形状が見えてきました。

 ここまで考えてきたのですから、既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを、実際に作りたいと思います。

 SPONGのデザインを基調に、材質を軽く、メンテナンスの容易なものに変更することにします。

 SPONGと同じく80mmと、日本人向けに、ひとまわり小さくした75㎜でモックアップをつくってみました。

右からSPONG80 SPONG80のモックアップ 75㎜サイズ 


 手が小さい人はグリップなど小さめを選ぶ傾向があるようですが、実際にはある程度大きいもののほうが握りやすいこともあり、感触を確かめることにしました。

 何人かの人に握ったり、底面を設置した状態で持ってもらってみたところ、ほとんどの人が75㎜のほうが持ちやすいといいました。

 75mmで作ることにします。

2015年10月25日日曜日

既存のミルの欠点を取り除いたコーヒーミルの形状

  軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルはどのような形になるのか。欠点を取り除いたコーヒーミルの形状はどのようなものになるのか(欠点を取り除いたものが、必ずしも理想の形状になるとは思いません)、ここでいったん、これまで考えてきた結論を出したいと思います。

 結論から言うと、ディアボロ型の形状が、原理的に優れています。

 廻す時に手が疲れるのは、豆を挽く際に引っかかった時、本体が引っ張られないように同じ場所に固定しようとするため、手首が無理な姿勢になるためだと判明しました。満員電車に乗った時、カーブやブレーキがかかった際、姿勢が崩れそうになりますが、その時、倒れないように踏ん張ると、無理な姿勢になると思います。あれと同じです。あの時、身体には無理な力が入っています。吊革につかまって、姿勢を崩してやり過ごすと、それほど疲れないはずです。コーヒーミルも同じで、引っかかった時、無理に床面に固定し続けようとしなければ、手首に大きな負担はかかりません。

 本体の大きさが大きなミルは、本体を支える面積が大きいため、あるいは押さえやすい形状のため、疲れないのでした。

 対して、箱型で縦廻し式のミルは、ディアボロ型に対して有利な点がありません。

 横廻し式のミルは、粉が残りすぎます。それに、ディアボロ型のミルで蓋をすれば、横廻しに近い姿勢でひくこともできるのです。

 ディアボロ型のミルは床面に固定しなくて済むため、無理な力がかかった際、やり過ごすことができるので疲れが少なくなります。ディアボロ型のミルは、置いて使うのではなく、持って使う方が楽です。持って使える形状は、疲れに対して原理的に優れています。

 欠点を取り除いたコーヒーミルの形状は構造的にMSS-1、材質的にMSCS-2TB、造形的にSPONG 80、刃の形状はF101・F303が最も近いです。

 中でもMSS-1には気づかされる点が多々ありました。MSS-1を使って感じたのは、粗引きの際でも粉度が安定することです。理由は、私の使い方にありました。今まで使ってきたミルは、ネジが固く締まりすぎるのを恐れて、ハンドルを固定する袋ナットを、きつく締めないようにしていました。その結果、ネジがゆるみ、粗い粉が出ていたのです。MSS-1はハンドルを固定する袋ナットがなく、こうしたことが起きません。つまり、ハンドルを固定するのに、同一方向に回転するナットを使わなければ、こうしたことは原理的に起こらないわけです。設計者の意図しない使われ方で、精度が落ちている例です。
 また、ホッパーの形状について、ホッパー上部が握れないほど太ければ問題にならないのですが、MSS-1では実際に「握ることのできる太さ」ため、握る手をハンドルに近い側に移動させると、かえって握りにくくなったことがありました。

 こういった想定外の使われ方を防ぐのも、良い設計です。


もっとも愛着のある3つのミル 右からSpong80、MSS-1、F201改

F201の袋ナットをHARIOセラミックスケルトン MSCS-2TBの部品に交換、ゆるみを減らして使っています


 既存のミルの欠点を取り除いたコーヒーミルの形状は、以下に集約されると考えました。
  • 手に持てるディアボロ型
  • 軽いこと
  • 握りやすい形状であること
  • 材質が良いこと
  • 想定外の使われ方をしないような形状にすること
遠回りしましたが、結論を出すことができました。

2015年10月17日土曜日

Spong 80を研究する(2)

 前回は、形状の違いを写真で見てきました。今回は、形状と使い勝手の関係を明らかにしていきたいと思います。比較のため、他機種と同じ項目で追っていきます。使いやすいコーヒーミルの形状とはどんなものか(1)では、
  • 絶対値として、動作が軽いこと
  • 底面が固定されること
  • 押さえる手に無理な力がかからないこと
  • 本体を押さえながら、ハンドルを廻した時に、押さえた手と干渉しないこと
を満たす形状として
  • 廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている
  • 左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい
  • 角のない受け皿
  • 分解しやすく、場合によっては洗える本体
を考案しました。Spong80は上記の条件を満たしているのか、検証することにします。
  • 廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている
  Spong80も、ちゃんと適切な高さにハンドルがあります。ディアボロ型のミルでは、この項目は必要ないので、記述はこれだけにします。
  • 左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい
  大変押さえやすい(握りやすい)形状です。今まで、F201・セラミックスケルトン・セラミックスリムを使ってみて、F201が最もしっくりきましたが、その上を行きます。押さえたとき、手の気持ちの良いところだけに触れます。太さといい、高さといい、大変心地良い形状です。ただ、全体が鋳物なので、非常に重たく、手に持って挽きたいとは思わないです。
  • 角のない受け皿
  「角のない受け皿」ですが、金属製のため、静電気で粉が残ります。
  • 分解しやすく、場合によっては洗える本体
  後述しますが、設計が古いため分解は若干手間がかかります。受け皿には、本体と組み合わせるため、ゴムがついているのと、底にフェルトが張られているので、気軽に洗うわけにはいかないようです。

  • 刃の形状・鋭さ・材質・硬度
  大変、大きな内刃です。今まで見たどの刃とも形状が似ていません。鋭さがまったくない形状です。作られてから長い年月を経たせいで、鋭さがなくなったというものではなさそうです。

大変大きな内刃です

 今まで全てミルについて、使用感の違いを以下の6点になると思うと書いてきました。Sopng80ではどうなのか、同じ項目について個別に見ていきます。
  1. 挽き心地が軽いか否か
  2. ホッパーに豆が残るか否か
  3. ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか)
  4. 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か
  5. 分解がしやすいか
  6. 豆の入れやすさ
  • 挽き心地が軽いか否か 
   決して軽くはないです。本体とシャフト触れる部分の精度が悪いので、特に粒度が粗いときに安定して挽けません。ボールベアリングが下のシャフトの接点に使われていますが、粒度の調節機構との摩擦を軽減させているだけで、シャフトのブレを防ぐ機能はまったく持っていません。せっかく外刃がブレる要素がないのに、大変残念です。
ベアリングとベアリングが収まる穴

  • ホッパーに豆が残るか否か
豆の挽き込み口が、ホッパー下部の一部しかなく、外刃の上ではなく、横に来るような高さに開いているので、豆が残ります。本体を傾けるなどして、豆を穴の中に入れてやる必要があります。
    • ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか) 
      静電気で粉が残るため、本体内側についた粉がこぼれ落ちます。HARIO セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TBを研究する(2)で、ディアボロ形状のミルでは、本体上部に残った粉をしっかり落とさないと、受け皿を外したとたん、周囲に残った粉がこぼれ落ちると書きましたが、Spong80は、ボロボロこぼれ落ちます。周囲が汚れるので、受け皿を取り外す際には気を使います。セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB、セラミックスリム・MSS-1は、静電気を帯びにくい材質だったので問題ありませんでしたので、材質の影響が、かなりあることがわかります。

    • 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か
     調節機構は、内刃の下で行う方式です。2つのネジを両端から進め、両者が接し動かなくなる点で固定させる方式です。思ったところにネジを固定するのには慣れが必要です。セラミックスリムが、非常に使いやすい設計でしたので、余計に使いにくいと感じるのかもしれません。
      調整にはちょっとしたコツがいります
    • 分解がしやすいか 
     粒度の調節機構にマイナスドライバー、ハンドルの取り外し「コイン」が必要ですが、それだけで分解ができます。ハンドルには大きく力がかかるので、固くなりますが、コインなど大きな工具を使えるので、それほど大きな問題にはならないと思います。ベアリングだけは、小さな部品なのと、転がりやすい部品なので、なくさないよう注意が必要です。
     組み立ての際、粒度の調節機構の調整がしにくいので、分解掃除のたびに調節するのは、少々面倒ですが、箱型のミルに比べれば大したことはありません。ディアボロ型ミルの使いやすさに、相当慣れてしまったようです。
    • 豆の入れやすさ
     投入口は広く、とても使いやすいです。ハンドルが非常に太いので、使いにくいかなと思いましたが、そのようなことはないです。
    • 結論・評価
     最後に評価です。
     大変持ちやすい握りやすい形状です。今まで使ってきたミルの中で最もしっくりきます。高さ、太さなど、作るなら外形は、この形状を元に考えます。重さだけは、非常に重たいため、女性の方は億劫になるかもしれません。また、設計が古いため、豆の粒度を調節する機構は使いにくいです。セラミックスリムの使いやすさを知った後では、この機構には良さを感じられません。

     しかし、このミルには所有する満足感があります。蒸気機関車のようなどっしりとした存在感は、なんともいえないものです(英国製なのに、華麗な英国の蒸気機関車とは、だいぶ雰囲気が違いますが。どちらかといえば、日本の蒸気機関車に似ていますね)。薄っぺらさとは無縁の重厚な存在感、いかにも濃そうなコーヒーを淹れられるような雰囲気は、捨てがたいものがあります。このミルも当ブログの考える良い手動式ミルの第七条件「満足感の高いこと」を、大きく兼ね備えています。

     コーヒーを淹れるという行為が、きわめて趣味性が高いことを、ここでも再認識させられます。

    2015年10月10日土曜日

    Spong 80 を研究する(1)

     今回はSpong 80を研究します。KONO式(コーノ式)ミルF201、HARIOの「セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB」は非常に合理的で使いやすかったので、またディアボロ(≒中国独楽)形状のミルを研究してみます。

      ディアボロ型の例にもれず、このモデルも、構造的に実によく考えられています。本体が外刃を兼ねるなど、部品点数は非常に少なく、11点(分解可能な部品)しかありません。セラミックスリムと並ぶ、ミニマムな構造です。

    Spong本体 重厚感あふれる質感とシンプルな形状
    • ホッパーの形状
      直線を基調とした、シンプルなデザインです。内部は底の部分が斜めになっており、スムースに引き込もうとする意図が見受けられます。挽き込み口は、ホッパー下部の一部しかなく、外刃の上ではなく、横に来るような高さに開いています。

    本体の一部が引き込み口になっています

    • ハンドル長
    95mmです。握り玉は木製です。

    • 金属部品群
    多くの部品が鋳鉄で作られており、大変重いです。ハンドルを留めるネジはアルミ、ベアリングは、おそらく鋼鉄製です。アルミもアルマイト処理をしたとは思えません。ですので、保存状態が悪いと、すべての部品が錆びます。私が手に入れた個体も錆びだらけでした。ベアリングは、磨いた後も錆が残っています。コストのため(切削加工はとんでもない値段になります)に鋳物で作ったのだと思いますが、材料の選定には、必ずしも同意できかねます。



    わずか11点しかない部品群

    • 刃の形状
    外刃はなんと、本体が兼ねています。外刃に原理的にブレが発生しないという点では、この構造が最も優れているでしょう。内刃は、F303以上の大きさの刃がついています。「上部で砕こう」と考えた形状ではなく、細断する部分まで、ほぼ同じ形状になっています。

    外刃は本体が兼ねる。砕く部分はなく、全体的に均一な形状

    左からSpong80 F303 HARIO 
    Spongは内刃上部に「砕く」個所がある

    左からSpong80 F303 HARIO 下から見ると良くわかります



    次回は、形状と使い勝手の関係を明らかにしていきたいと思います。

    2015年9月21日月曜日

    PATEK PHILIPPEのこと(3)

     ミントコンディションの9-90です。

    材質はSSです。このころのSSは錆びない鉄として最先端の金属=貴金属の扱いを受けていました(昨今のインターネットの普及で、材質についての研究が進んでいるようですが、どうもよくわかりません。ご存知の方がいらっしゃいましたら、御教示願えれば幸いです)。

    9-90 Ref不明
    この時計も、風防がうねっており、撮影に苦労しました。また、ケースに映る影の入れ方が難しいです。

    ****

     こうして、何本ものPATEKのことを書くと、お金持ちを想像しそうですが、そんなことはありません。ごくごく普通のサラリーマンです。

     では、なぜこんなに買うことができたかというと、自動車を所有したことがないのと、お金のかかる趣味を持たなかった(持てなかった)ことでしょうか。

     自動車は、若いころは本当に欲しかったのですが、都内在住の身には駐車場代が高すぎました。また、比較的駅から近いところに住んでいたこともあり、どこに出かけるのも電車のほうがずっと便利という状況の中、自動車を所有する意味が見いだせませんでした。自動車に乗るのはどう考えても月に1回程度、それも純粋にドライブするためだけに毎月数万円もの出費では、さすがに割に合いません。結果的に、今まで一度も所有したことがないままです。
     でも、いつか、MercedesのW111 Coupe(220SE)(リンク先はコンバーチーブルですが)をアップデートして乗りたいです。

     お金のかかる趣味というと、思い浮かぶのはゴルフでしょうか。いまでこそだいぶ安くなりましたが、バブル当時の会員権はとんでもない値段がついていました。ビジターでの料金も高かったと聞いています。仕事柄、接待ゴルフをすることもなく、プライベートでも周囲の人間が誰もしていなかったこともあり、結局しないままです。また、ゴルフ自体が一時期より下火になってしまい、そのままグリップを握ったこともない状態が続いています。
     
     カメラも好きですが、腕の悪さは自覚がありました。広角レンズを使っての良い写真など夢のまた夢です。そうかと言って望遠レンズでは、何を撮っても、「日の丸写真」の量産です。最近でこそ、必要に迫られ「ブツ撮り」をはじめましたが、カメラより照明に手間をかける方が大事だということが、やっとわかりました。
     デジカメはなかなか、精密機械としての趣味の対象にはなりにくいです。しかし、今となってはフィルムカメラでは効率が悪すぎます。今後いくらお金があっても、IIIC(Luftwaffen)M3(70万台)F(640万台)F2(T)F3(Limited かP)マキナ670、(全部欲しかったカメラです)などのカメラを使うことはないでしょう。使い勝手の良さから70-180mm Zoom Micro Nikkorは魅力的ですが、「スタジオ」の狭さから、コンパクトカメラで撮っています。

     オーディオも好きですが、都内マンション在住の身には、オーディオシステムを買うことすら、叶いませんでした。ヘッドフォンで聞かなければならないような環境では、高価なオーディオシステムなど、夢のまた夢です。音を出すことすらできないのでは、宝の持ち腐れです。いつか、周囲を気にしなくて済み、十分に広いところに住むことができたら、Luxman L-570X'sノーマルの570も、570Z'sもいいなぁ)、Sonus Faber ELECTA AMATORが欲しいです。甘い、あのとろけるような音のするELECTA AMATORで、キャスリーン・バトルの曲を聴きたいです。

     時計を購入したのは「場所を取らない」という、現実的な側面もあるのです・・・。

     自動車、お金のかかる趣味を、そっくりそのまま時計の購入資金に充てたとしたら・・・、決して遠い世界の、非現実的な話ではないことが、お分かりになっていただけると思います。

    2015年9月12日土曜日

    PATEK PHILIPPEのこと(2)

     腕に載らなかったカラトラバオートですが、12-600ATには抗し難い魅力があります。Ref.425は普段使うには、ちょっと気を使うところがあるため、スクリューバックのものを探していました。いろいろな店で様子を伺っていたところ、大きめですが、コンディションの割には非常に安いRef.2552が出ていたので、買ってしまいました(といっても20年前ですが)。Ref.2552はカラトラバオートではありません。カラトラバオートを名乗れるのはRef.3403、Ref.3439、Ref.3438だけです。

    PATEK PHILIPPE Ref.2552 12-600AT

     今回、この記事を書くために写真を撮りましたが、この時計を撮影するのは実に難しいです。バーインデックスのエッジの鋭さ、針の立体感を伝えることは至難の業です。この1枚を撮るのに半日以上費やしましたが、Ref.2552の持つ魅力の半分も伝えていません。時計雑誌が、どのように撮っているのか参考にしようと見直したのですが、まったくいい加減な写真しか撮っていないことがわかりました。

     確かに、証明写真大程度の紹介写真では、一枚にかけることができる時間が少ないので、他の時計と似たようなセッティングにしたのだと思われますが、それではこの時計は、ちゃんと写ってくれません。今回、Ref.425や他の時計も一緒に撮ったのですが、Ref.2552だけが格段に難しいです。

     光が十分に廻らないと、安っぽい金色になりますが、そうなるとこの時計の持つ鋭いエッジ感が伝わりません。別のライトを使って鋭さを出しますが、ひとつのインデックスの質感を出せても、別のインデックスの影がうまく出ません。すべてのインデックスの仕上げがあまりに素晴らしいので、うまく影の出ないインデックスが気になって仕方ないのです。

     Ref.2552を撮影することで、あらためて、このデザインの完成度の高さ、視認性の良さを再認識しました。

     この時計は、わずかな光さえあれば、鏡面加工されたインデックス、針が鋭く光を反射するので、時間がわかります。今回の撮影に当たり、インデックスに当たる光をコントロールするため暗闇を作ったのですが、ほんの少しの隙間から洩れてくる光にも反射してしまうため、ずいぶんと困りました。逆にいえば、それだけ視認性が良いということです。
     これこそ、用の美でしょう。本当に良いデザインというものは、美しいだけでなく、それだけで何種類もの機能を果たしてくれるものです。

     この時計も、存在するだけで多くのことを教えてくれました。

     今まで、この「カラトラバ」のデザインが素晴らしいということを言ってきましたが、他人の言葉で言っていたと思います。初めて、自分の言葉でこの時計の魅力を話せるようになりました。

     手に入れてから、ずいぶん時間がかかりました。

    2015年9月5日土曜日

    PATEK PHILIPPEのこと(1)

     昔、時計に興味がありました。
     
     時計は、腕に載るという観点で選んでいます。私は色が白く、手首が細いので、細長い角型の時計が好みです。
    

    PATEK PHILIPPE Ref.425 Pt

    尾錠もオリジナルです
    このRef.425は一目惚れです。その日はカラトラバオート(Ref.3403)を買いに行ったのですが、腕に載りませんでした。たまたま横にあったRef.425を載せたところ、吸い付くように腕に載りました。その瞬間、カラトラバオートは視界から消え、Ref.425が私のところにやってきました。同じ9-90を使っている他のモデル、トップハット(Ref.1450)フレアード(Ref.1593)耳たぶ(Ref.2442)は、写真で見ると、素晴らしいデザインですが、残念ながら私の腕には載りません。そうした意味ではピンクゴールドも選択肢から外れます。色が合わないのです。そういえば、両親ともに銀色の時計が似合います。母はいつも角型のSSのWittnauerの時計をしています。もともとは父が買ってきたものですが、父には小さかったようで、母が使うようになりました。私がPtのRef.425を選んだのも、両親の影響が大きいです。

     Ref.425は写真で見ると、縦の比率が長く、細長すぎる印象がありますが、実際に腕の載せて見るとまったくそのようなことはありません。少なくとも、私には一番しっくりきます。

     コンディションの良いの9-90のリューズを巻いた時の感触は、なんとも言えないほど滑らかな感触を持ちます。

     何人かの時計師と、何があの滑らかな感触を実現しているのか考えてみたことがありました。
     
     コハゼの形状、巻き上げ機構のアガキの少なさ、磨きの仕上げの良さが要素としてあがりました。コハゼのわずかな摩耗具合でも変わるので、同じようにするのは事実上不可能ですよ、と言われました。

     手廻しのミルを空回りさせた時、OLD PATEKの感触を再現するなどという、大それたことは申しません。ただ、このような、何度でも廻したくなるような気持ちにさせるものにしたいものです。

    2015年8月22日土曜日

    コーヒーミルを作ることにしました(8)

     ナイスカットミルの替刃の設計ですが、試行錯誤した結果、元の形状+みるっこの刃の形状になりました。 

     素人の見る目では、かなり難しそうな加工をしているように見えたのですが、思ったより、加工は容易な形状だということがわかりました。
    ナイスカットミルの切り込み+みるっこの突起

    固定側(もしくは回転側)

     実際に使ってみたところ、特に粗挽きの際、粒度が安定します。挽くのにかかる時間は、それほど変わりません。

     なぜ粒度が安定するのか、挽く時間がそれほど変わらないのか。その辺の理由を明らかにするためにも、次回あたりから、ナイスカットミルの研究に入りたいと思います。

    2015年8月15日土曜日

    HARIO(旧)を研究する(3)

    今まで全てミルについて、使用感の違いを以下の6点になると思うと書いてきました。HARIOのコーヒーミルではどうなのか、同じ項目について個別に見ていきます。

    F201と並べて見ると、ひと回り大きいことがわかります


    挽き心地が軽いか否か
    1. ホッパーに豆が残るか否か
    2. ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか)
    3. 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か
    4. 分解がしやすいか
    5. 豆の入れやすさ 

    挽き心地が軽いか否か

     いろいろな姿勢で挽いてみたと書きましたが、椅子に座ってテーブルの上で挽いても、キッチンに立ってキッチンテーブルに置いて挽いても、また、この小型軽量のモデルならではだと思うのですが、立って宙に浮かせたまま使っても大丈夫です。このモデルに限らず、ディアボロ形状のミルは持った方が使いやすいです。というか、ディアボロ型のミルではこの項目は必要ないかもしれません。

    ホッパーに豆が残るか否か

     本体と刃の間に継ぎ目があり、どうしても細かい破片が残ります。F201よりも隙間は大きいような気がしますが、透明で目立つからかもしれません。

    ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか)

      特にディアボロ形状のミルでは仕方がないのですが、受け皿を外したとたん、周囲に残った粉がこぼれ落ちます。F201では本体上部のスカート部が大きく深く、すぐに横にすれば、粉が外にこぼれ落ちることはなかったのですが、残念ながら、HARIOのモデルではスカート部がないため、本体上部に残った粉がこぼれ落ちます。また、アクリルの本体は静電気を帯びやすいようで、この影響もかなりあるようです。
     このモデルの後に発売されたHARIO セラミックコーヒーミル・スケルトン・MCSC-2TBもスカート部が浅いのですが、セラミックのため、刃に付着する粉の量が圧倒的に少ないので、こぼれ落ちる量が問題になりません。形状もさることながら、材質は予想以上に影響があるようです。

    粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か

     調節機構は、今まで見たことのない形式です。本体・シャフトに固定されない、独立した調節部品が隙間を調節します。本体とは「キー」で共周りを防止しています。どんな時でも粒度を調節できます。粒度の調節としては非常に優れていますが、後述しましうが構造的には分解の際、少々気を使います。また滑り止めにゴムを使用していますが、劣化した場合など、交換部品が供給されているのかが気になります。
    本体・シャフトに固定されない調節部品

    反対側から見た調節部品 ネジの位置もずらしています

    粒度を細かくした場合

    粗くした場合

    本体にギザギザがあり、ゴムで滑りを止めています

    分解がしやすいか

     一番上の袋ナットを外した時点で、内刃を留めるものがなくなるので、内刃がいきなり下に落ちます。ガラス瓶をつけたままでは、傷が付きそうなので、気を使います。今まで見てきたモデルは、調節機構にネジがあり、そのまま落ちることはありませんでした。分解の際には、事前にガラス瓶を外すことが必要です。
     また本体と外刃の間に細かい粉がいっぱいたまります。長く使うと細かい粉で本体が傷つけそうですが、いかがでしょう。
     ただ、前述しましたが、ハンドルを除くと2箇所のネジを外せばすべて分解ができます。部品点数の少なさという点で、F201よりも分解しやすいです。

    豆の入れやすさ

     F201同様、投入口と、飛び散り防止のための蓋を兼ねた構造になっています。形状から想像すると、穴が小さく、豆があふれそうに思えるのですが、ホッパー開口部の大きさが広いので、計量スプーンで入れる際も、豆がこぼれることはありません。ふちの高さが足りないと思うかもしれませんが、そのようなこともありません。また、挽く際には、豆はすべて穴に落としてから挽き始めるので、残った豆がこぼれることもないです。見た目からは想像できないほどに、この形状は使いやすいです。
     しかし、アクリルは豆が滑らないことがわかりました。HARIO(旧)を研究する(2)で、ryota sawaki様より戴いた写真を見てもわかる通り、このモデルは豆がなかなか滑らず、すぎに下に落ちません。金属製のF201は豆が滑って、スルスルとすぐに穴に落ちるのですが、材質も大きな要素なのだということがわかりました。

    F201に良く似た豆の投入口

    F201の方が穴が大きいですね


    結論・評価

     最後に評価です。F201の影響を大きく受けているモデルですが、細かい点を見ていくと、だいぶ異なったものだと思います。機能的には残念ながらあまり高い評価を下すことができません。理由は、手に持ちにくいこと、袋ナットを外しただけで内刃が落ちること、本体と受け皿を外したとき、粉が周囲にこぼれやすいこと、ガラスの受け皿の口が大きすぎるためです。

     F201、セラミックスケルトン、セラミックスリムという、大変優れたモデルの後に使ったためか、どんどん評価が厳しくなってしまいました。しかし、それでもボックス型のミルに比べれば、圧倒的に使いやすく優れています。
     また、キッチュとも言えるデザインは、他にない魅力を放っています。なんというか、周囲の雰囲気が明るくなるのです。セラミックスケルトンが、良くできたキッチンツールにしか見えないのに対し、このモデルは明らかに楽しさがあります。赤だけでなく、白のモデルでもそうです。

     楽しい食卓を彩るミル。人に見せたくなるコーヒーミル。挽かせてと言われて、渡した時、使いにくくて嫌になって返されないミル。そんな使い方をしている方には、代わりがないものと言えるでしょう。

     セラミックスケルトン、セラミックスリムは、このミルの使いにくさをほぼ解消し、機能の極致に達しました。しかし、失ったものも大きいようです。

     何が良いミルなのか、またわからないことが増えました。

    2015年8月8日土曜日

    HARIO(旧)を研究する(2)

     こちらによくコメントをくださる、ryota sawaki様より、HARIOディアボロ型ミルの、色違いモデルの写真を頂戴しました。

     御両親の結婚祝いに頂いたサイフォンセットの中に含まれていたものということです。38年前とのことですが、今でも現役で活躍とは、ミルもさぞかし、幸せなことでしょう。

    豆がいっぱい、はいっていますね。
    F201ではすぐに穴から落ちてしまいますが、留まっているのが興味深いです


    握り玉まで白ですっきりしています。

     こうしてみると、すっきりしていて白もいいですね。白はコーヒーミルにらしからぬと思っていましたが、コーヒー豆のこげ茶色と、良いコントラストをなしています。

     まさか、このミルの記事で、これほどのやり取りが発生するとは思ってもいませんでした。何が、どう関係するか、わからないものですね。

    2015年8月1日土曜日

    HARIO(旧)を研究する(1)

     今回も引き続き、ディアボロ形状のミルを取り上げます。
    KONO式(コーノ式)ミルF201、セラミックスケルトン、セラミックスリムがあまりに合理的で使いやすかったので、すっかりこのディアボロ形状(≒中国独楽)の虜になってしまいました。他に何か存在しないか調べたところ、過去にHARIOで作られているのを見つけました。HARIOのミルはどのように進化してきたのでしょう。

    今回はHARIOの「コーヒーミル(形式不明)」を取り上げることにします

    HARIOのディアボロ型ミル(形式不明)



    今回も本体の形状を見て行きます。使いやすいコーヒーミルの形状とはどんなものか(1)では、
    • 絶対値として、動作が軽いこと
    • 底面が固定されること
    • 押さえる手に無理な力がかからないこと
    • 本体を押さえながら、ハンドルを廻した時に、押さえた手と干渉しないこと
     を満たす形状として
    • 廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている
    • 左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい
    • 角のない受け皿
    • 分解しやすく、場合によっては洗える本体
    を考案しました。HARIOのミルは上記の条件を満たしているのか、検証することにします。

    廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている

     HARIOのミルも、ちゃんと適切な高さにハンドルがあります。いろいろな姿勢で挽いてみましたが、どんな時でも干渉することはありません。

    左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい

     F201と比べると、なんというか、しっくりきません。ホッパーとガラスの受け皿をねじ止めしている部分の径が大きく、掌に納まりません。また、ホッパー上部も当たります。もう少し細くするとか、そういう問題ではなく形状に問題があります。ただ、セラミックスケルトンよりは握りやすいです。特に手の小さい女性にとっては、明らかに使いやすいです。

    角のない受け皿

     「角のない受け皿」の条件を満たすのはもちろん、ガラス素材の長所を発揮しています。ネジのピッチも大きく、ネジ山に粉が入り込んで取れなくなることもありません。容量も2人分(30g)以上挽いても十分です。材質も強化ガラスを使用しており、強度的にも問題ありません。
     ただ、底が浅いのに口が広いので、粉が周囲にこぼれそうになります。特に冬場は静電気で強く付着するので、周囲をたたいたりして粉を落とすことになりますが、この際、間違いなく周囲をが汚れます。広すぎる口も問題です。

    分解しやすく、場合によっては洗える本体

     ハンドルを除くと2箇所のネジを外せばすべて分解ができます。樹脂を使用しているためF201よりも手軽に、水洗いができます。分解可能な部品点数は11点しかありません。ただし、本体は複雑な形状なので、内部を完全にふき取るのは大変です。しかし、指が入りにくかったりするわけではないので、セラミックスリムの受け皿よりは楽にふき取れます。
    HARIOの構成部品


    ハンドルの動作半径

     動作半径は110mmです。

    刃の形状・鋭さ・材質・硬度

     なんと、F201・F205と同じ形状の刃が使用されています。コーノと何か関係があったのでしょうか。何か御存じの方がいらっしゃいましたら、御教示ください。
    左がHARIO 右がF205 若干HARIOの内刃が大きいです
    シャフトの固定方法も一緒です(左がHARIO 右がF205)

    HARIOは廻り止めの加工がされていますが、基本形状は一緒です
    左がHARIO 右がF205)

    こうして見ると同じだということがよくわかります
    左がHARIO 右がF205)



    次回は、形状と使い勝手の関係を明らかにしていきたいと思います。

    2015年7月5日日曜日

    KONO式(コーノ式)ミル F101とF303の刃を比較する

     今回は、F101とF303の刃を比較します。

     写真を見るとF101、F303は同じように、打ちぬいた板を重ねるタイプの刃が使っており、単体の写真を見るだけでは似たような刃を使っているように見えます。また、大きさの判別が難しいため、上の刃の形状とエッジの立ち方が異なる程度にしか見えません。

     組み込んだ状態で上から見ると、それほど変わらないように見えますが、実際は大きさ、外刃の形状がだいぶ異なります。

    コーノF303              高さ(18.5mm)・径(45mm)・螺旋形状(五条)
    コーノF101(通常モデル)          高さ(19mm)・径(32mm)・螺旋形状(五条)

    大きさも、螺旋の角度も、刃のエッジも異なります

    下から見ると大きさの違いがよくわかります
    今回手に入れたF101は、状態がひどく、清掃にずいぶん手間取りました。特に内刃は、重ねられた板の隙間から、錆なのか、コーヒーの古くなった油なのか、何か黒いものがいつまでも染み出してきて、なかなか汚れが取れません。板を重ねる構造は、メンテナンス上問題があると感じました。

     この際なので、F101とF303の刃を分解してみました。

     F303の刃は、固くネジ留めされていますが、分解が可能です。非常に固くネジ留めされているため、コーヒーの粉じんは中まで入り込むことはありません。回り止めに、Dカット加工がされ、表裏ともニッケルメッキがされています。高級機にふさわしい構造と仕上げです。




    裏側 コーヒーの粉じんは内部まで入り込んでいない


    対してF101の刃は、ネジではなく、先端をつぶす形で留められているため、残念ながら、非破壊検査はできませんでした。もちろん、元のボディにつけて使用することができるよう、同じ径のシャフトをつけて組み直すつもりです。
    F101先端部

     メッキ代のコストを下げるためか、組み立ててからメッキ、ギザ加工をしているようです。全体にメッキをしていないせいか、ネジで完全に密着させていないためか、内部はさびています。回り止めは、二面加工です。

    どの面もさびています。2つくっついているのは、さびで、はがれないためです。

    下から見ると、刃の先端が曲がっており、組み立ててから加工していることがわかります

     F303とF101の、どちらが使いやすいかですが、本体の形状が異なるのでなんとも言えないのですが、F101の方がなめらかに感じます。理由は径の大きさなのか、エッジの立ち具合なのか、外刃の形状なのか、螺旋の強さなのか、それとも他の何かなのかはわかりません。

     必ずしも、コストをかけた作りの良い刃の方が、挽き心地が良いわけではないところが難しいです。さらに研究の必要性を感じます。

    2015年6月20日土曜日

    KONO式(コーノ式)ミル F101を研究する(4)

      F101の「通常タイプ」を入手しました。F303の刃に近い形状を持つタイプです。

     管理人のF101と比較しましたが、刃以外の、ケース、ハンドル、粗さ調節機構などはすべて一緒です。試しに相互の部品を交換して組み立ててみましたが、普通に組み上がります(現代日本の工業製品なのですから、当然なのですが)。
    右が通常タイプのもの 

     外刃は一見、同じもののように見えますが、通常タイプの方が、若干内径が小さいです。これで、管理人の所有するF101は、内刃だけ、別のミルと入れ替えたのではなく、製品として存在したことがわかりました。
    通常タイプの内刃を入れると径が合わないことが分かる

     今まで全てミルについて、使用感の違いを以下の6点になると思うと書いてきました。F101(通常版)はどうなのか、同じ項目について個別に見ていきます。ただ、管理人のもっている「謎のF101」と本体形状は同じなので、項目3・4・5・6については省略します。
    1. 挽き心地が軽いか否か
    2. ホッパーに豆が残るか否か
    3. ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか)(省略)
    4. 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か(省略)
    5. 分解がしやすいか(省略)
    6. 豆の入れやすさ(省略)
    • 挽き心地が軽いか否か
     驚くほど滑らかです。軽さについては、エッジの立っていない刃、螺旋のない外刃の形状からある程度予想していましたが、挽いた感触が滑らかなのには驚きました。なんというか、「ザラツキ」が少ないのです。最近、HARIOのセラミックスリム・HARIOセラミックスケルトンばかり使っていたので、そのためかと思いましたが、他のミルと比較してもそう思います。豆を挽き込む際、ほとんどの機種では重く引っかかることがあるのですが、これがありません。何度も試しましたが、一度も強く噛みこむことがありませんでした。しかも、挽くのにそれほど時間がかかるわけでもないのです。
    • ホッパーに豆が残るか否か
     管理人の所有する謎のF101と同様です。基本的に外刃の形状は似ているので、ホッパーと外刃の間に段差があり、そこに豆が残ります。本体を振るなどして、刃の中に落とすことが必要です。残念ながら、挽いている時の振動だけで落ちるようなことはないです。

     破片が飛び散る量ですが、予想通り、それほどでもありません。もちろん飛び出ますが、絶対量が少ないです。今まで見てきたKONO式(コーノ式)ミルに共通の特徴である、
    • 内刃の上部が小 さく、上の部分で砕くこと自体を少なくすること
    • 外刃の鋭さをなくして、豆を滑らせること
    で、破片を飛び散りにくくしていると言えるでしょう。
    • 結論・評価
      この通常型のF101の最大の美点は外刃と内刃にあると言って良いでしょう。強く噛み込みすぎることによる引っかかりのない滑らかな挽き心地は、なんとも言えないものがあります。また、角のない受け皿は大変使いやすいです。
     しかし、ディアボロ型ミルのメンテナンスの容易性を知った今、箱形のミルには高い評価を下すことができません。特にこのモデルは材質上、静電気が凄いです。本体の裏側にびっしり付き、受け皿を引き出すと粉がボロボロ出てきて周囲を汚します。HARIOのセラミックスケルトン、セラミックスリムに慣れてしまった今となっては、かなり気になります。そうした意味では、今まで他のミルに下してきた評価も見直す必要があるのかもしれません。刃がすばらしいだけに残念です。

    2015年5月31日日曜日

    F303の刃とF201のボディを組み合わせる(3)

     改造したF201ですが、上部にもZZ型のベアリングを奢りました。NSKのF698ZZ、もちろん国産です。

    NSK F698ZZを追加しました

     ハンドルの感触はさらにスムースになり、軽く押すだけでハンドルが何回転もします。廻した時の滑らかさたるや、なんとも言葉にしがたく、もう何度も廻してしまいます。空廻しがスムースなのはもちろんですが、豆を挽いても実に滑らかなのです。F698ZZをつけて以来、この感触を味わいたいがために豆を挽いて、コーヒーを飲んでいます。

     手前味噌になりますが、当ブログの考える良い手動式ミルの第七条件「満足感の高いこと」を、これほど満たすものはないです。

    外観。ほとんど変化はないのですが・・・。

     ミルを作る際には、この感触を皆さまにも味わっていただけるものを作りたいと思います。

    2015年5月16日土曜日

    HARIO セラミックスリム・MSS-1を研究する(2)

     前回は、形状の違いを写真で見てきました。今回は、形状と使い勝手の関係を明らかにしていきたいと思います。比較のため、他機種と同じ項目で追っていきます。使いやすいコーヒーミルの形状とはどんなものか(1)では、
    • 絶対値として、動作が軽いこと
    • 底面が固定されること
    • 押さえる手に無理な力がかからないこと
    • 本体を押さえながら、ハンドルを廻した時に、押さえた手と干渉しないこと
    を満たす形状として
    • 廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている
    • 左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい
    • 角のない受け皿
    • 分解しやすく、場合によっては洗える本体
    を考案しました。セラミックスリム・MSS-1は上記の条件を満たしているのか、検証することにします。
    • 廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている
      セラミックスリム・MSS-1は、ちゃんと適切な高さにハンドルがあります。いろいろな姿勢で挽いてみましたが、どんな時でも干渉することはありません。というか、ディアボロ型のミルではこの項目は必要ないかもしれません。
    • 左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい
      ホッパーの上部は若干膨らんでおり(逆富士山型)、豆が多く入るようになっていますが、上部を同じ太さの円筒にした方が良かったと思います。それは、膨らんだところを「握ることができる」ためです。力の弱い人に挽いてもらったところ、ハンドルと近いところに左手を移動させました。実際に試してみると、ハンドルと、本体を持つ手の距離が近いほうが挽きやすいことがわかります。ホッパー上部が握れないほど太ければ問題にならないのですが、実際に「握れる太さ」ため、握る部分の太さが問題となったわけです。形状設計の変数の多さ、難しさを感じさせます。
    • 角のない受け皿
      「角のない受け皿」の条件を満たすのはもちろん、プラスチック素材ですので気軽に洗うこともできます。粉もほとんど残らず、大変使い心地が良いです。
     内部は口の大きさが小さいので、若干洗いにくいかもしれません。また、構造的に「外壁」と「粉の受け部分」の間に水が残ります。ふき取るのも簡単というわけにはいきません。デザインのバランス上、あまり低いのも格好悪いので、ある程度高さを確保するため、末広がりにしたためだと思います。プラスチック素材はあまり肉厚にすると凹みますから、ソリッドで成形することもできません。細い形状は好感が持てるのですが、ホッパー上部の逆富士山型といい、細部には再考の余地があります。
    「外壁」と「粉の受け部分」の間
    挽いた粉には影響ありませんが、水滴はふき取りにくいです
    • 分解しやすく、場合によっては洗える本体
      私の知る限り、工具を使わずに分解できる唯一のミルです。純粋に手だけで、無理な力をかけずにすべて分解ができます。組み立ても、粒度を考慮せず、ただ組み上げるだけなら1分もかかりません。また、セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB同様、すべての金属部品にステンレスを使用しており、水洗いができます。技術の進歩とはこういうものかと思います。今までに見てきたどのミルよりも、格段に優れた機構設計です。

    • 刃の形状・鋭さ・材質・硬度
      セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB同様、セラミックで作られており、内刃はザッセンハウス・プジョーに近い形状になっています。今回、比較撮影のためにMSCS-2TBを分解したところ、セラミックの刃が少し摩耗しているのに気が付きました。最初は手で触ると、とがった部分で手が切れそうだったのですが、「あたり」が柔らかくなっています。使用頻度は、毎月500gで、これを9か月程度。これをどう評価してよいのかわかりませんが、金属であれ、セラミックであれ、摩耗については、今後、考えていきたいと思います。


     今まで全てミルについて、使用感の違いを以下の6点になると思うと書いてきました。HARIOのセラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TBではどうなのか、同じ項目について個別に見ていきます。
    1. 挽き心地が軽いか否か
    2. ホッパーに豆が残るか否か
    3. ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか)
    4. 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か
    5. 分解がしやすいか
    6. 豆の入れやすさ
    • 挽き心地が軽いか否か 
    決して軽くはないです。ハンドルと近いところに左手を移動したくなります。また、(実際には抜けないのでしょうが)ハンドルが抜けそうで怖いので、ハンドルを下に押し付けながら挽きたくなります。セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TBのほうが、ブレが少なく安定するので、特別に手の小さい方でない限り、疲れは少ないと思います。
    • ホッパーに豆が残るか否か
      内部は構造的に外刃を固定するための平面段差があり、ここに豆がたまります。しかし、ディアボロ型のミルは本体を斜めにしたりして、すぐに豆を動かすことができるため、それほど問題になりません。また、今までの考察から、段差によって一度に噛みこむ量を減らす効果もあり、一概に段差があることは否定できません。しかし、せっかく内側の表面を平滑にして、滑りを良くしているのですから、砕いた際に飛び散ったカケラすら残らないようにしたいと考えれば、段差はないほうが良いようにも思えます。
      • ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか) 
        HARIO セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TBを研究する(2)でも書きましたが、ディアボロ形状のミルでは、本体上部に残った粉をしっかり落とさないと、受け皿を外したとたん、周囲に残った粉がこぼれ落ちます。しかし、セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB同様、セラミックの刃は静電気を帯びにくいので、ほとんど粉がこぼれません。セラミックスリム・MSS-1はスカート部がないのもかかわらず、粉が外にこぼれ落ちることもなく、ネジ山に粉が入り込んで取れなくなることもありません。電動ミルしか使ったことのない人は、にわかには信じられないのではないでしょうか。細い本体を実現するのにも、セラミック製の刃は大きく貢献しています。

      挽いた直後にも関わらず、微粉の付着はほとんどありません
      • 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か
       調節機構は、内刃の下で行う方式です。今まではすべてシャフトの上で調節してきたので、ここは大きく異なります。ハンドルを装着して、「ミツバ型の部品」を廻すだけです。簡単に思ったところに移動させることができます。機構的に無理がなく、大変よく考えられています。
      • 分解がしやすいか 
       前述しましたが、工具を使わずに分解・組み立てができます。何度も書きますが、大変優れた設計思想です。特筆すべきはハンドルの固定方法です。今まで見てきたミルは、特にハンドルと、一番上の袋ナットは、ネジの締まる回転方向と、ハンドルを回転させる方向が一緒なので、どんどん食い込んでいきましたが、それが原理的に発生しません。
       しかし、ちゃんと固定されていないので廻す際にブレが発生し、ハンドルを下に押し付けながら挽きたくなるのもまた事実です。
       この問題をどう解決するのかが大きな課題です。

       セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB同様、シャフトのネジ部分は転造方式で作成されています。切りくずが出ず、強度もアップし、大量生産ならコスト的にも有利な製造方式です。6mmのシャフトを元に、ネジ部分をあらかじめ細く5mmで作成しておく、ハンドルの取り付け部分も、一体鍛造加工など、このシャフトはかなりコストがかかっています。ハンドル部分との接触跡を見ると、焼き入れはなされていないようですが、焼き入れは、この製品の価格では、大変多くのコストを占めることになるので、これ以上のコストアップは避けたかったのでしょう。
        
        赤丸部分が、あらかじめ細くしてから転造加工したネジ部分
        青丸部分が、ハンドルを取り付けるための六角加工
      • 豆の入れやすさ
       投入口は細い本体にもかかわらず、ハンドルを取り外しできることもあり、とても使いやすいです。絶対的に容量が小さいので、豆の飛び散り防止フタは必須です。フタの開け閉めは、ハンドルの取り外し、装着が非常に楽なので、まったく苦になりません。
      • 結論・評価
       最後に評価です。セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TBと並ぶ、ディアボロ形状の最新機種として、どう評価をすべきかですが、MSCS-2TBと並ぶ、高い評価を下したいと思います。

       どちらを選ぶかは、握って廻した時(ほぼ無理ですが、できれば豆が入った状態)の好みで選ぶので良いのではないでしょうか。確実にハンドルを固定し、挽き心地が安定するMSCS-2TBを選ぶか、よりコンパクトで握りやすく置き場所を選ばないMSS-1を選ぶか。MCSC-2TBの太さが問題にならなければ、そのほうが使いやすいと思います。

       細かく見れば、欠点がないわけではありません。より握りやすく、優れたデザインのミルの形状はどのようなものか。水洗いの後、確実にふき取りやすい形状にできないか。そして、このミルの一番の問題点である「ハンドルを確実に固定し、かつ取り外しが容易で、しかも安いコストでそれを実現する構造」はどんなものか。どれも、簡単には答えが見つからないであろう問題が残ります。