2015年12月31日木曜日

このミルが存在する意義、土俵はいったいに何か

 昨年末、コーヒーミルに対する自分のスタンスを書きましたが、今年もまた書いてみたいと思います。
手に入れた部品群 すべて国産です


 このミルが存在する意義、土俵はいったいに何なのかを考えてみました。

 価格、品質などで勝負するのか。

 価格はどう考えても、勝負になりません。以前研究したHARIO製のミルは、あれほどの高品質でありながら、3000円も出せば手に入るのです。個人だから利益を削ってでも安くできるといった話ではありません。そもそもシャフト1本を加工するだけで、あっという間に3000円に達してしまいます。価格での勝負などお話になりません。

 品質はどうでしょう。もちろん「過剰品質」としますが、現代の日本で手に入る部品は、写真を見てもお分かりの通り、そもそも品質が良いのです。これから作る特注品はさらに良いものにし、見る人が見れば明らかに良いものにしますが、現代の工作機械で作る限り、工業製品として、圧倒的な差がつくものではないと思います。

 では、このミルが存在する土俵は何か。

 私は、下町ロケットや、超絶スゴ技などに出てくる、偉大な技術者、職人を頂点に頂く、広いすそ野を持った、モノづくりの山々のふもとにいると思っています。

 今回作るものは、ロケット部品の精度を求められるものではありません。しかし、お世話になっている会長をはじめとする、モノづくりに携わる方々のネットワークは、明らかに高品質の製品を世に送り出しています。私は間違いなく、偉大な山々を支える一員におり、誇りを持って、この仕事に当たっています。

 下町ロケットを見ながら、何度も頬を熱いものが伝わりました。

 今回つくるミルは、その偉大な山々を構成する人々を支える糧となるものです。すべての部品を国産で賄い、この国でモノづくりが続けられるよう、物資、金銭面から支えていきます。まことにわずかで、支えるなどという言葉が恥ずかしくなるような量ではありますが、それでもほかの国で作れば、間違いなくその分はマイナスになるのです。

 このミルを構成するのは、誠の志です。

 必要な場所に、必要なコストをかけた部品を使います。同じような製品があれば、高くとも国内の雇用に結び付くものを選びます。ただそれだけではありますが、誠実なモノづくりに徹します。

 本田宗一郎氏が掲げた基本理念に「三つの喜び(買う喜び、売る喜び、創る喜び)」.というものがあります。以下に全文を引用します。

 私は吾が社のモットーとして「3つの喜び」を掲げている。即ち3つの喜びとは、造つて喜び、売つて喜び、買つて喜ぶという3つである。
 第1の造る喜びとは、技術者のみに与えられた喜びであつて、造物主がその無限に豊富な創作欲によつて宇宙自然の万物を作つたように、技術者がその独自のアイデアによつて、文化社会に貢献する製品を作り出すことは何物にも替え難い喜びである。然もその製品が優れたもので社会に歓迎される時、技術者の喜びは絶対無上である。技術者の一人である私は斯様な製品を作ることを常に念願として努力している。
 第2の喜びは、製品の販売に当る者の喜びである。吾が社はメーカーである。吾が社で作つた製品は代理店や販売店各位の協力と努力とによつて、需要者各位の手に渡るのである。この場合に、その製品の品質性能が優秀で、価格が低廉である時、販売に尽力される方々に喜んで頂けることはいうまでも無い。良くて安い品は必ず迎えられる。よく売れるところに利潤もあり、その品を扱う誇りがあり、喜びがある。売る人に喜ばれないような製品を作る者は、メーカーとして失格者である。
 第3の喜び、即ち買つた人の喜びこそ、最も公平な製品の価値を決定するものである。製品の価値を最も良く知り、最後の審判を与えるものは、メーカーでもなければ、デーラーでもない。日常製品を使用する購買者その人である。「ああ、この品を買つてよかつた」という喜びこそ、製品の価値の上に置かれた栄冠である。私は吾が社の製品の価値は、製品そのものが宣伝してくれるとひそかに自負しているが、これは買つて下さつた方に喜んで頂けることを信じているからである。
 3つの喜び、これは吾が社のモットーである。私は全力を傾けてこの実現に努力している。

引用ここまで。

誠にシンプル、単純明快にして、余すところなくモノづくりの本質を語っています。

 このミルを持たれる方は、間違いなく、偉大な山々を構成する一員です。その喜びを皆様と共有したいと思います。

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