2014年2月27日木曜日

ザッセンハウスを改造する(5)

これが、改造したザッセンハウスのミルです。
金色の蓋を取り、ホッパーにアルミ板を渡し、B-SETを固定、切断した軸を鍋屋バイテックのカップリング(MGR-20)でB-SETと接続しました。ハンドルは今までのものを流用しました。


改造したザッセンハウスのミル


 肝心の使い心地ですが、横回しに改造しても、まったく軽く挽けるようになりません。

 ハンドルを回す方向が、少なくとも最大の問題ではないことが明らかになりました。期待されていた方、申し訳ありません。
 しかし、「ハンドルを回す方向こそが問題」という呪縛から離れた瞬間、別の視点から見直すことができるようになりました。
  •  どれだけ本体を固定できるか
  挽くためには、本体を左手で支える必要があるのですが、この際、手首が変な方向を向き、力がうまく入らなかったりすると、非常に疲れます。どれだけ本体を固定できるかで、疲れ方が大きく違います。大型ミルが疲れないと言われるのは、この辺に理由があるようです。

  • 横回しのモデルがないことの理由がわかる
  1. 歯車が高い
モジュール1の完成歯車1個だけで1200円程度。2個で約2500円。これは量産価格です。固定する部品を入れると、切削歯車を採用するだけで、なんだかんだで3000円近くはかかると考えてよいでしょう。今回採用したB-SETなど、それだけで8000円近いです。一番安い歯車は、鋳物のような肌の小原のLM焼結マイタで1個380円です。カリタのWI-165が、鋳物のような歯車を使っているのも仕方ないです。
小原 LM焼結マイタ


  2. コストアップ、機構の複雑化を図りながら、メリットがほとんどない

 横回しのため、若干腕が楽ですが、疲れることの最大の理由ではないことが判明しています。WI-165は歯車の比率が違うので少し早く挽けますが、製品化すべきか、作る側としては、なかなか難しいところです。

このモデル固有の問題
  • 粒度の調節をするため、カップリングとの接続を甘くすると空回りする
  • カップリングをしっかり固定すると、粒度の調節が困難
  • 分解が非常に困難
  • L字型金具の固定部分が浅すぎ、B-SETがちゃんと固定できない
   
  • 左手で本体を支える際に、B-SETの角が痛い
  • 早く回せるようになった結果、ハンドルの金属部分が摩擦で熱くなる(真ん中の金属部分がハンドルの握り玉とキッチリ組まれているようで、摩擦で熱くなるのです。金属部分が、握り玉の中に凹んでいるといいなと思います)
 

 机の上におき、上から押さえるようにしてまわすと、比較的楽に挽けます。

 失敗作と言われても仕方ない完成度です。しかも、たったこれだけのことをするのに3ヶ月もかかっています。帰宅後に考えたり、平日しか加工会社を訪問できないこともありますが、モノを作るのは大変なことなのだと、しみじみ思いました。

 しかし、ここでめげるようでは、まだまだです。では、いったい何が問題なのか?検証するために、他のモデルと比べてみることにします。候補は非常に軽快な挽き心地を持っていると評判のプジョーのミルです。このザッセンハウスと並ぶ、もうひとつの雄を研究することで、いったい何が問題なのか、明らかにしていきたいと思います。

2014年2月22日土曜日

ザッセンハウスを改造する(4)

 歯車の購入をするため、早速ネットで探します。メカニカル部品の購入先といえば、新聞レベルの知識ではミスミが有名ですが、ここは個人相手には売ってくれません。MonotaRO(モノタロウ)で探しました。しかし、素人には検索が難しいです。ネジ歯車(herical or screw gear)は英語表記にもあるとおり、他にヘリカルギア・はすば歯車・スパイラルギアなどと呼ばれています。どれも正しい名称なのですが、メーカー側でつけた製品名・分類で登録されているので、カテゴリーとして検索すると出てこないことがあります。検索し忘れがないか調べたおかげで、歯車と歯車メーカーはずいぶんと詳しくなりました。このことは後で役に立ちます。
 やっと見つけてわかったのは、結構な値段がするのと、歯車は、そのままでは使えないということです。歯車をシャフトに固定するには、イモネジなどで固定する必要がありますが、それには追加工する必要があります。

イモネジと固定穴


 ところが、MonotaRO(モノタロウ)では追加工を受け付けてくれません。直接メーカーに問い合わせてみたところ、商社を通してくれとの返答が返ってきました(この当時、小原歯車工業はまだ個人相手に商売はしてくれませんでした)。商社を探し、依頼をし、図面のやり取りをし・・・、それだけで、あっという間に日にちが過ぎていきます。
 やっとイモネジ追加工の見積もりが来たのですが、歯車本体をはるかに越える見積もりが出てきました。機械加工屋には常識なのでしょうが、当時の私はびっくりしました。今でこそ、刃物をセットしたり、寸法出しをしたり、場合によっては冶具を作成するなど、段取りにかかる時間を含めた価格(でもイモネジなんて、標準的な追加工ですよね)だと理解できるようになりましたが、当時はそんなこともわからず、あまりの金額に、平行して他の歯車を検討することにしました。。
  今度の条件は、イモネジ・キー加工がされている「完成歯車完成歯車2」で検索です。しかし、 
  1. 横の回転運動を、縦に変換できること
  2. 手で回した回転数を上げられること
  3. 直交する歯車をそれぞれ、軸の両側から保持できること
の条件で探すと、完成歯車では「1」しか満たしていないマイタ歯車(miter gear)しかないのです。

完成マイタ歯車(miter gear)


しかも、完成マイタ、ネジ歯車とも、ミルに固定する部品については、最初から作らなければなりません。芯出しに要求される剛性、寸法精度の大変さは結構なもので、ちょっとしたことで噛み合いがおかしくなり、動かなくなります。ミルに固定する金具に取り付けようにも、この精度を出す工作をするだけで、バカにならない手間と金額がかかることがわかりました。
 ここで、過去に検索した情報が役に立ちました。協育歯車B-BOXB-SETです。これなら最初から、優れた精度で歯車が固定されています。固定面が大きく取れるB-SETを選定、ミルを改造することにしました。 

B-BOX

B-SET
お待たせしました。次回は、やっと改造したミルをお目にかけます。

2014年2月21日金曜日

ザッセンハウスを改造する(3)

 平行して、どのような歯車を採用すべきか、「メカニズムの辞典」を読みます。私は機械屋ではありませんが、それでもこの本の素晴らしさはわかります。
 「本書は機械工学の偉大な碩学。淺川権八博士の名著「機械の素」を母体にしています。明治末期の初版以来、現代に至るまで、同書の有効性は燦然と輝いています。脚光を浴びている産業用ロボットの駆動機構も本書に収録した原型から応用機構を含むメカニズム800余例にその基本が示されているといえましょう。
  機械系学生、研究者、技術者の座右にあって、名実ともに生涯役立つ実用の基本図書として、ぜひ一冊机上にお供えください」
とありますが、その言葉にまったく偽りありません。元となった「機械の素」の初版は、なんと1912年。版を重ね、1966年10月に新編、1983年に解説を改訂・縮刷して本書となりました。これぞ、不朽の名著です。おそらく私は、一生手放さないでしょう。
 機構的に困った時、何かを作りたいときは、必ずこの本を読みます。直接「これ」というものはなくとも、類似した構造があったり、参考になるものが必ずあります。

 またこの本は、たとえ機械の設計者でなくとも役に立ちます。

日経産業新聞 仕事人秘録 工場再生請負人と呼ばれて(6)(2008/9/2 P20)で山田日登志氏は、

「からくり=簡単に言えば丸と直線の組み合わせ」を応用すれば設備投資の額を大幅に削減でき、生産性が何倍にも高まる。色々な機械の動きの研究に没頭したとおっしゃっています。

色々な機械の動きを研究することは、ものの見方に幅が出るのです。学科を問わず副読本(高等学校あたりが良いでしょうか)に採用すべきものと思います。何より単純に読み物として面白いです。
 どういった機構を採用するか、以下の選定条件で探して見ます。
  1. 横の回転運動を、縦に変換できること
  2. 手で回した回転数を上げられること
  3. 直交する歯車をそれぞれ、軸の両側から保持できること
  •    「横の回転運動を、縦に変換できること」を満たすものとして、以下のものが見つかります。
ウォームギア(worm and worm wheel)
傘歯車(ベベルギア)(bevel gear)
          マイタ歯車(miter gear)

    
    まがりばかさ歯車(spiral bevel gear)

    ハイポイドギア(hypoid gear)
フェースギア(face wheel and worm)
ネジ歯車(herical or screw gear)
 
  •  「手で回した回転数を上げられること」で絞り込みます
傘歯車(ベベルギア)( bevel gear)    
   まがりばかさ歯車(spiral bevel gear) 
   ハイポイドギア(hypoid gear)
   ネジ歯車(herical or screw gear)

  • 「直交する歯車をそれぞれ、軸の両側から保持できること」では2点になりました
ハイポイドギア(hypoid gear)
   ネジ歯車(herical or screw gear)

ハイポイドギアは一般的ではないようで、あまり種類がないのと、高価ですので、ネジ歯車を採用することにしました。
ネジ歯車(herical or screw gear)

 次は歯車の購入です。しかし、実際の形にするには、まだまだ想像もつかない問題が山積みになっていたのでした。

2014年2月11日火曜日

ザッセンハウスを改造する(2)

いったい何が問題なのか考えてみました。

実際に使ってみると、確かに腕が疲れます。ネットで検索すると、「軽くサクサク削るようです」といったコメントを多々読みますが、 私には到底そうは感じられませんでした。

  • しっかり保持しないと、本体が動く。押さえる手が疲れる。
  • 時々、豆が引っかかるような感触がある。
  • 挽き終わるまで、時間がかかる(10gで30回程度。これは粒度によって違いがあり、細かく挽くほど回数は多くなる)

今になって見れば、上記のような問題点を明確に書けますが、そのときは、左手で、ミル本体を動かないように押さえながら、右腕を使って平面に回転させることに、一番動きとして無理が感じられました。

拙宅には、かつおぶし削り機「オカカ」があります。



これもやはり、左手で本体を動かないように押さえながら、右腕を使って平面に回転させます。そして、やはり腕が疲れます。

疲れるのは、ハンドルの廻し方に問題があるのではないかとの仮説を立てました。

腕を平面に回転させるから疲れるのだ。ハンドルを横に廻せるようにすれば、疲れなくなるのではないかと推測したわけです。

さっそく、横回し方法を考えます。私が思うということは、少なくとも同じようなことを考える方は必ずいるはずです。

既存のミルはどうなっているのか調べてみました。

  • カリタ WI-165 最近、廃盤になったようですね。ミルの基本構造は同じで、ハンドル部分だけを、すぐばかさ歯車(Straight bevel gear)を使って横に変換しています。すぐばかさ歯車は、軸線が同一平面上にあるため、(このモデルの場合)横軸が反対側に貫通できないので、軸を両側から支えられないのが気になります。ザッセンハウスの良さは、軸を両側から支えることで、軸のブレを抑えることにあるからです。また、歯車が粗く鋳物のような肌で、精密感に欠けるのも気にかかるところです。

カリタ WI-165

  • カリタ ダイヤカットミル コーヒーミルと言えばこれをイメージする人が多いのではないでしょうか。京都ではイノダコーヒスマート珈琲太秦店など、お店のシンボル的な存在になっていますね。しっかりと軸の両側を支えています。今回は、ザッセンハウスを改造するので、調査の候補から外れました。
カリタ ダイヤカットミル


2014年2月7日金曜日

ザッセンハウスを改造する(1)

 友人が、挽きたてのコーヒーが飲みたいと言っていたので、コーヒーミルを贈ることにしました。
早速ネットで調べてみるとザッセンハウスのミルが評判が良いようです。
 ネットにある意見をまとめると、以下に集約できました。

  • 現行品の最高級モデルは「ラパス(La Paz MJ-0801)」。以前は169というモデルだった。
  • 2007年にいったん倒産。筐体で使用していた木材が、手に入らなくなったことが原因とあるが、真相は不明。2008年に復活するも、以前のほうが品質が良かったとの書き込み多数。
  • 169という形式番号で製造されていた中でも、西ドイツ時代の製品が最も良いとされる。
  • 回転刃は心棒に固定されており、これを上下両側で保持するためブレが少ない。コーヒーの味は、いかに均一に豆を挽けるかに左右されるので、回転刃・固定刃のクリアランスが一定に保たれるのは本機の最大の特徴。
  • 刃は硬質特殊鋼製。ステンレスの記述もあり。鋭く、非常に切れ味が良い。
  • 挽いているときに豆が飛び散るため、蓋がついているモデルが良い。
  • 本機のホッパーは豆の落ちる角度が急になっており、豆が途中で残らず、汚れが少ない。
早速購入。贈ったところ、挽きたてのコーヒーは格別と喜んでおりました。


ラパス(La Paz MJ-0801)


 しばらくして、様子を聞いたところ、いまは使っていないとのこと。訳を聞いてみると、疲れるからとのことでした。最初は喜んで使っていたけれど、一杯分のコーヒーを挽くだけでずいぶん疲れるので、しばらくすると、また粉で買うようになってしまったと、申し訳なさそうに話していました。

使ってみると確かに疲れます。

引き取って、改造することにしました。