2015年10月31日土曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(1)

 既存のミルの欠点を取り除いたコーヒーミルの形状が見えてきました。

 ここまで考えてきたのですから、既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを、実際に作りたいと思います。

 SPONGのデザインを基調に、材質を軽く、メンテナンスの容易なものに変更することにします。

 SPONGと同じく80mmと、日本人向けに、ひとまわり小さくした75㎜でモックアップをつくってみました。

右からSPONG80 SPONG80のモックアップ 75㎜サイズ 


 手が小さい人はグリップなど小さめを選ぶ傾向があるようですが、実際にはある程度大きいもののほうが握りやすいこともあり、感触を確かめることにしました。

 何人かの人に握ったり、底面を設置した状態で持ってもらってみたところ、ほとんどの人が75㎜のほうが持ちやすいといいました。

 75mmで作ることにします。

2015年10月25日日曜日

既存のミルの欠点を取り除いたコーヒーミルの形状

  軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルはどのような形になるのか。欠点を取り除いたコーヒーミルの形状はどのようなものになるのか(欠点を取り除いたものが、必ずしも理想の形状になるとは思いません)、ここでいったん、これまで考えてきた結論を出したいと思います。

 結論から言うと、ディアボロ型の形状が、原理的に優れています。

 廻す時に手が疲れるのは、豆を挽く際に引っかかった時、本体が引っ張られないように同じ場所に固定しようとするため、手首が無理な姿勢になるためだと判明しました。満員電車に乗った時、カーブやブレーキがかかった際、姿勢が崩れそうになりますが、その時、倒れないように踏ん張ると、無理な姿勢になると思います。あれと同じです。あの時、身体には無理な力が入っています。吊革につかまって、姿勢を崩してやり過ごすと、それほど疲れないはずです。コーヒーミルも同じで、引っかかった時、無理に床面に固定し続けようとしなければ、手首に大きな負担はかかりません。

 本体の大きさが大きなミルは、本体を支える面積が大きいため、あるいは押さえやすい形状のため、疲れないのでした。

 対して、箱型で縦廻し式のミルは、ディアボロ型に対して有利な点がありません。

 横廻し式のミルは、粉が残りすぎます。それに、ディアボロ型のミルで蓋をすれば、横廻しに近い姿勢でひくこともできるのです。

 ディアボロ型のミルは床面に固定しなくて済むため、無理な力がかかった際、やり過ごすことができるので疲れが少なくなります。ディアボロ型のミルは、置いて使うのではなく、持って使う方が楽です。持って使える形状は、疲れに対して原理的に優れています。

 欠点を取り除いたコーヒーミルの形状は構造的にMSS-1、材質的にMSCS-2TB、造形的にSPONG 80、刃の形状はF101・F303が最も近いです。

 中でもMSS-1には気づかされる点が多々ありました。MSS-1を使って感じたのは、粗引きの際でも粉度が安定することです。理由は、私の使い方にありました。今まで使ってきたミルは、ネジが固く締まりすぎるのを恐れて、ハンドルを固定する袋ナットを、きつく締めないようにしていました。その結果、ネジがゆるみ、粗い粉が出ていたのです。MSS-1はハンドルを固定する袋ナットがなく、こうしたことが起きません。つまり、ハンドルを固定するのに、同一方向に回転するナットを使わなければ、こうしたことは原理的に起こらないわけです。設計者の意図しない使われ方で、精度が落ちている例です。
 また、ホッパーの形状について、ホッパー上部が握れないほど太ければ問題にならないのですが、MSS-1では実際に「握ることのできる太さ」ため、握る手をハンドルに近い側に移動させると、かえって握りにくくなったことがありました。

 こういった想定外の使われ方を防ぐのも、良い設計です。


もっとも愛着のある3つのミル 右からSpong80、MSS-1、F201改

F201の袋ナットをHARIOセラミックスケルトン MSCS-2TBの部品に交換、ゆるみを減らして使っています


 既存のミルの欠点を取り除いたコーヒーミルの形状は、以下に集約されると考えました。
  • 手に持てるディアボロ型
  • 軽いこと
  • 握りやすい形状であること
  • 材質が良いこと
  • 想定外の使われ方をしないような形状にすること
遠回りしましたが、結論を出すことができました。

2015年10月17日土曜日

Spong 80を研究する(2)

 前回は、形状の違いを写真で見てきました。今回は、形状と使い勝手の関係を明らかにしていきたいと思います。比較のため、他機種と同じ項目で追っていきます。使いやすいコーヒーミルの形状とはどんなものか(1)では、
  • 絶対値として、動作が軽いこと
  • 底面が固定されること
  • 押さえる手に無理な力がかからないこと
  • 本体を押さえながら、ハンドルを廻した時に、押さえた手と干渉しないこと
を満たす形状として
  • 廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている
  • 左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい
  • 角のない受け皿
  • 分解しやすく、場合によっては洗える本体
を考案しました。Spong80は上記の条件を満たしているのか、検証することにします。
  • 廻した時に左手に当たらない高さに、ハンドルが配置されている
  Spong80も、ちゃんと適切な高さにハンドルがあります。ディアボロ型のミルでは、この項目は必要ないので、記述はこれだけにします。
  • 左手で押さえる際、親指と人差し指を開いて握るような形状は押さえやすい
  大変押さえやすい(握りやすい)形状です。今まで、F201・セラミックスケルトン・セラミックスリムを使ってみて、F201が最もしっくりきましたが、その上を行きます。押さえたとき、手の気持ちの良いところだけに触れます。太さといい、高さといい、大変心地良い形状です。ただ、全体が鋳物なので、非常に重たく、手に持って挽きたいとは思わないです。
  • 角のない受け皿
  「角のない受け皿」ですが、金属製のため、静電気で粉が残ります。
  • 分解しやすく、場合によっては洗える本体
  後述しますが、設計が古いため分解は若干手間がかかります。受け皿には、本体と組み合わせるため、ゴムがついているのと、底にフェルトが張られているので、気軽に洗うわけにはいかないようです。

  • 刃の形状・鋭さ・材質・硬度
  大変、大きな内刃です。今まで見たどの刃とも形状が似ていません。鋭さがまったくない形状です。作られてから長い年月を経たせいで、鋭さがなくなったというものではなさそうです。

大変大きな内刃です

 今まで全てミルについて、使用感の違いを以下の6点になると思うと書いてきました。Sopng80ではどうなのか、同じ項目について個別に見ていきます。
  1. 挽き心地が軽いか否か
  2. ホッパーに豆が残るか否か
  3. ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか)
  4. 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か
  5. 分解がしやすいか
  6. 豆の入れやすさ
  • 挽き心地が軽いか否か 
   決して軽くはないです。本体とシャフト触れる部分の精度が悪いので、特に粒度が粗いときに安定して挽けません。ボールベアリングが下のシャフトの接点に使われていますが、粒度の調節機構との摩擦を軽減させているだけで、シャフトのブレを防ぐ機能はまったく持っていません。せっかく外刃がブレる要素がないのに、大変残念です。
ベアリングとベアリングが収まる穴

  • ホッパーに豆が残るか否か
豆の挽き込み口が、ホッパー下部の一部しかなく、外刃の上ではなく、横に来るような高さに開いているので、豆が残ります。本体を傾けるなどして、豆を穴の中に入れてやる必要があります。
    • ホッパーの縁に挽いた粉が飛び散るか(汚れが激しいか) 
      静電気で粉が残るため、本体内側についた粉がこぼれ落ちます。HARIO セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TBを研究する(2)で、ディアボロ形状のミルでは、本体上部に残った粉をしっかり落とさないと、受け皿を外したとたん、周囲に残った粉がこぼれ落ちると書きましたが、Spong80は、ボロボロこぼれ落ちます。周囲が汚れるので、受け皿を取り外す際には気を使います。セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB、セラミックスリム・MSS-1は、静電気を帯びにくい材質だったので問題ありませんでしたので、材質の影響が、かなりあることがわかります。

    • 粒の大きさの調節機構が使いやすいか否か
     調節機構は、内刃の下で行う方式です。2つのネジを両端から進め、両者が接し動かなくなる点で固定させる方式です。思ったところにネジを固定するのには慣れが必要です。セラミックスリムが、非常に使いやすい設計でしたので、余計に使いにくいと感じるのかもしれません。
      調整にはちょっとしたコツがいります
    • 分解がしやすいか 
     粒度の調節機構にマイナスドライバー、ハンドルの取り外し「コイン」が必要ですが、それだけで分解ができます。ハンドルには大きく力がかかるので、固くなりますが、コインなど大きな工具を使えるので、それほど大きな問題にはならないと思います。ベアリングだけは、小さな部品なのと、転がりやすい部品なので、なくさないよう注意が必要です。
     組み立ての際、粒度の調節機構の調整がしにくいので、分解掃除のたびに調節するのは、少々面倒ですが、箱型のミルに比べれば大したことはありません。ディアボロ型ミルの使いやすさに、相当慣れてしまったようです。
    • 豆の入れやすさ
     投入口は広く、とても使いやすいです。ハンドルが非常に太いので、使いにくいかなと思いましたが、そのようなことはないです。
    • 結論・評価
     最後に評価です。
     大変持ちやすい握りやすい形状です。今まで使ってきたミルの中で最もしっくりきます。高さ、太さなど、作るなら外形は、この形状を元に考えます。重さだけは、非常に重たいため、女性の方は億劫になるかもしれません。また、設計が古いため、豆の粒度を調節する機構は使いにくいです。セラミックスリムの使いやすさを知った後では、この機構には良さを感じられません。

     しかし、このミルには所有する満足感があります。蒸気機関車のようなどっしりとした存在感は、なんともいえないものです(英国製なのに、華麗な英国の蒸気機関車とは、だいぶ雰囲気が違いますが。どちらかといえば、日本の蒸気機関車に似ていますね)。薄っぺらさとは無縁の重厚な存在感、いかにも濃そうなコーヒーを淹れられるような雰囲気は、捨てがたいものがあります。このミルも当ブログの考える良い手動式ミルの第七条件「満足感の高いこと」を、大きく兼ね備えています。

     コーヒーを淹れるという行為が、きわめて趣味性が高いことを、ここでも再認識させられます。

    2015年10月10日土曜日

    Spong 80 を研究する(1)

     今回はSpong 80を研究します。KONO式(コーノ式)ミルF201、HARIOの「セラミックコーヒーミル・スケルトン・MSCS-2TB」は非常に合理的で使いやすかったので、またディアボロ(≒中国独楽)形状のミルを研究してみます。

      ディアボロ型の例にもれず、このモデルも、構造的に実によく考えられています。本体が外刃を兼ねるなど、部品点数は非常に少なく、11点(分解可能な部品)しかありません。セラミックスリムと並ぶ、ミニマムな構造です。

    Spong本体 重厚感あふれる質感とシンプルな形状
    • ホッパーの形状
      直線を基調とした、シンプルなデザインです。内部は底の部分が斜めになっており、スムースに引き込もうとする意図が見受けられます。挽き込み口は、ホッパー下部の一部しかなく、外刃の上ではなく、横に来るような高さに開いています。

    本体の一部が引き込み口になっています

    • ハンドル長
    95mmです。握り玉は木製です。

    • 金属部品群
    多くの部品が鋳鉄で作られており、大変重いです。ハンドルを留めるネジはアルミ、ベアリングは、おそらく鋼鉄製です。アルミもアルマイト処理をしたとは思えません。ですので、保存状態が悪いと、すべての部品が錆びます。私が手に入れた個体も錆びだらけでした。ベアリングは、磨いた後も錆が残っています。コストのため(切削加工はとんでもない値段になります)に鋳物で作ったのだと思いますが、材料の選定には、必ずしも同意できかねます。



    わずか11点しかない部品群

    • 刃の形状
    外刃はなんと、本体が兼ねています。外刃に原理的にブレが発生しないという点では、この構造が最も優れているでしょう。内刃は、F303以上の大きさの刃がついています。「上部で砕こう」と考えた形状ではなく、細断する部分まで、ほぼ同じ形状になっています。

    外刃は本体が兼ねる。砕く部分はなく、全体的に均一な形状

    左からSpong80 F303 HARIO 
    Spongは内刃上部に「砕く」個所がある

    左からSpong80 F303 HARIO 下から見ると良くわかります



    次回は、形状と使い勝手の関係を明らかにしていきたいと思います。