2018年12月28日金曜日

HARIO セラミックスリム・MSS-1を研究する(3)

先日、codgetさまより,「ハリオコーヒーミル用 粒度均一化プレート CMMU-H1」のご案内をコメントよりいただきました。

私からは「素晴らしい製品ですね。効果の大きさと、品質の高さ、そしてなにより手軽さが良いです。私も手軽な製品を考えたいと思います」という返信をいたしました。

codgetさまがセラミックスケルトン用に作られたので、私もセラミックスリム用に高性能化部品を作ることにしました。

もともと私はセラミックスリムMSS-1こそ、メンテナンスしやすいミルの極致と思うほど素晴らしい構造だと思っておりますので、ちょうど良い機会でした。
改造するつもりでよく見ると、これはシャフトを上下二点で支える構造と相似であることに気づかされます。
セラミックスリム カットモデル

私の考えるモデルのカット図 緑色部分がベアリング

THE COFFEE MILL カット図
そこで、ブレをなくすことを目的に、いくつかの部品を改造することにしました。

①上下二点のシャフトを固定する樹脂部品の精度を良くすること 
セラミックスリム 改造部品(白)
穴をきつくすること、シャフトと接する範囲を広くすることで、シャフトのブレを少なくしました。下の写真が、実際に本体にシャフトを組み込んで置いた状態です。左のTB(透明ブラック)は既製品、右のB(ブラック)は改造品です。既製品ではシャフトが上に押され、浮き上がっているのがわかります。改造品では、シャフトがきつく締められているため、浮き上がりません。これにより、動作は固くなっています

右が改造部品を組み込んだセラミックスリム シャフトがきつく締められているのがわかる

②内刃のぶれをなくすこと
 既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(7)でも書きましたが、取り外しを容易にするために、シャフトと内刃の間に隙間を設ける必要があり、ガタが発生しています。
 シャフトの固定部品について、シャフトの固定部をきつくすることでガタつきを少なくし内刃の動作を安定させました。いくらシャフトを固定しても、肝心の内刃にガタが発生しているのでは意味がありません。そもそもシャフトを固定するのは内刃のブレをなくすためです。
 そのため、使いやすさに問題が発生しました。MSS-1のオリジナル部品では、バネの力で押し出されますので簡単に粒度調節ができますが、今回の部品交換で、最初は内刃が「粒度調節方向にほとんど動かなくなる」状態になります。最初は粒度調節はできません。しばらく使うと、なじんで調整ができるようになります。何種類か違う寸法で作ったのですが、ある程度きつく固定しないとガタがなくならないので、きつめにしました。

 粒度調節のしやすさと、ガタつきの解消は相反しています。粒度調節のしやすさという点ではMSS-1のオリジナル部品がすでに存在していますので、本品は粒度調節のしやすさより、ガタつきの解消を目的としました。
HARIOセラミックスリム 改造後比較 隙間がありません
③副次的に得られた効果
 シャフトの固定部をきつくすることで、動作感触が変わりました。ハンドルの動作については、過去の研究でも「しかし、ちゃんと固定されていないので廻す際にブレが発生し、ハンドルを下に押し付けながら挽きたくなるのもまた事実です。」と書いています。
 内刃のブレをなくすためにシャフトの固定部品の精度を良くした結果、ハンドルの動作角の遊びが小さくなりブレが少なくなりました。
 ハンドルの動作角の遊びは、挽く負担を大きくします。「動作角の遊び」なんて大したことはない、影響があるのは動作の最初だけで、ハンドルを回しはじめたら関係ないだろうと思えますが、必要以上に遊びの多いハンドルは動作を不安定にし、動作負荷を高めます。アルミ削り出しの試作品を使ってからは、その違いがはっきりと分かりようになりました。固定されたハンドルは、当ブログの考える良いミルの「第三条件:挽き心地が軽いこと。」の必須条件です。

 次回は挽いた粉の品質を比較します。

2018年11月25日日曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(7)

オリジナル設計のボディでの、試作品第2号の本体ができました。

右が第2号機 若干くびれを細くしています。これでだいぶ持ちやすくなりました

外観はあまり変わりません。第1号では3D-CADの画面上ではわからない本体の質感、まわした時の感触、豆の飛び散り具合などを検証するために、既存のF101の刃を組み込んで作成してみたのですが、やはり変更したい箇所がいっぱいありました。特に握った時の感触があまり良くなかったので、くびれを少し細くしました。
 実物がなかなかできなかったのは、受皿のガラスと本体をはめるための、バヨネット構造の樹脂部品が高額だったためです。
 
 樹脂部品については、3Dプリンターでの作成が良いのではないかとのアドバイスをいただいていたのですが、過去に見た3Dプリンターによる生成物は、かなり積層面が荒いものでした。以来、3Dプリンターの品質をまったく信用していなかったこと、私のCADではSTLによる出力ができないことから検討もしていなかったのですが、私の勉強不足でした。igesデータで作ってくれるメーカーが見つかったこと、安価でかなりの精度で作成される方法があったので、作ってみました。結果は素晴らしい精度でした。品質、強度については、これからいろいろな方に使ってみていただき、検証していきたいと思います。
3Dプリンター ナイロン粉末造形(PA粉末造形・粉体造形・SLS)による作成 精度はいいです

 
せっかくなので、以前設計した内刃と外刃も実物を作ってみました。3D-CADの画面上では、それなりに凹みをつくったつもりですが、実際に見て見ると浅いので、現在再設計、作成し直しています。実物での確認は重要ですね。
F101の形状を参考に一体型で作成 第1号


 れがーと様からコメントをいただきましたが、シャフトと内刃をどうやって組み立てるかが課題です。このミルを作るにあたっては、可能な限りメンテナンスを楽にしたいという目標がありました。そのためには部品点数を少なくし、道具を使わなくとも、分解組み立てを可能にする必要があります。これについては、HARIOのMSS-1の構造が真っ先に浮かびました。しかし、これはブレが大きくなるという問題がありました。コーヒーミル本来の目的である「挽いた粉を均質にすること」を実現するためには、内刃と外刃のブレを極力小さくする必要があります。内刃のブレをなくすためには、シャフトと内刃を固定することが一番確実です。多くのミルはこの構造を採用しています。ではどうしたらよいのか。実際のモデルから考えて見たいと思います。

 1.シャフトから内刃を簡単に取り外すことのできる構造です。HARIO MSS-1の構造では、下から内刃を取り外すことができます。しかも道具を使わずに分解組み立てが可能です。しかし、取り外しを容易にするために、シャフトと内刃の間に隙間を設ける必要があり、ガタが発生しています。これではコーヒーミル本来の目的である「挽いた粉を均質にすること」を満たしません。


取り外しを容易にするには、シャフトと内刃の間に隙間が必要です

 2.シャフトと内刃を固定する方法です。内刃とシャフトが一体化しているため粒度が均質になります。SPONGが完全一体でこの方法が最も確実ですが、この方式では分解の際、内刃を下から取り外すため、ハンドルとシャフトが分離することが前提となります。私の考えているモデルでは、ハンドル部分を一体化しているので、固定すると上からシャフトを抜くことができず、分解ができなくなってしまいます。内刃だけをシャフトから取り外せるようにすればよいのですが、これが難題です。一番確実でコストがかからないのは、ネジを使って固定する方法ですが、道具を使う必要があります。

写真左  SPONG:完全一体
写真中央 KONO F303:組立式だが、分解を前提としていない
写真左  HARIO セラミックスリム:ネジで固定、分解を前提としていない
シャフトと内刃を固定する方式


 

 1の方法はどうやらダメそうなので、シャフトと内刃を固定する方法で、道具を使わずに分解できる部品を考えてみました。着脱を容易にするため、内刃との固定はヘクサロビュラ形状(カムアウトが発生しません)を採用、ノブの形状は人間の手になじむ理想的なかたちとされるセブンロブノブを採用しました。実際に使ってみないと、使い勝手がわからないのですが、現在の私に知るうる限りの最良のものを組み合わせて作成してみました。左ネジで作ってみたのですが、内刃と一体で動くためネジ部分には荷がかからないので、通常のネジで作り直したいと思います。

ヘキサロビュラ形状で固定するネジ(左) オリジナルで設計しました

内刃とネジを組み合わせたところ 3Dプリンタの精度は非常に高く、ピッタリ合います
あとは、内刃と外刃の実物を作成するだけです。問題は費用です。お金さえあれば、今すぐ実物を作ることができます。刃などは2016年に基本設計は終わっています。今回、設計変更がありましたが、それも試作品を1個つくればわかることです。
 初期投資を抑えて作成する方法について、この2年間ずっと探し続けてきました。かなり有力な方法も見つかり、解決したかに思えたこともあります。しかし、残念ながらこの形状を作ることができませんでした。
 費用をどうやって工面するかが解決すれば、製品化が可能なところまで、あと一歩です。

2018年3月17日土曜日

既存のミルの欠点を取り除いた軽快な挽き心地、粉が飛び散りにくいミルを考案する(6)

オリジナル設計のボディにF101の刃を組み込んだ試作品ができました。



報告までにずいぶん間が空いてしまいました。この間、何もしていなかったわけではないのですが、最終形状に近づいたこともあり、製品化前に種明かしをしたくない部分が多くなってしまいました。

今回は試作した形状の評価としたいと思います。

本体形状 

 コンマ単位での調整が必要です。事前にモックアップで検証しましたが、実際に動作させてみると、いろいろと感覚面で欲が出てくるものです。握り具合を確かめながら削ったので、微妙に段差が残っています。一度削った個体を、再度旋盤にセットするのは大変難しいです。次の個体は、これをなくした時にどうなるのかも確かめてみたいと思います。
 この段階でギリギリの寸法で作っているので、ねじ穴の深さ、位置などを動かし、あと0.1mmをどこから捻出するか、頭を悩ませています。

重さ
 0.1mmをどこから捻出するのか悩むほど、ギリギリの寸法で作っているので、それほど重くありません。女性でも手に持って使うのが億劫になるような重さではないです。

挽き心地

 今までのいかなるミルにもない圧倒的な安定感、滑らかな挽き心地、空回し時は無負荷といっても過言ではないほどのスムースな感触を実現しました。特にこの個体は、F101の刃を組み込んでいるため、豆を挽いた時も、F101の持つ滑らかな感触を引き継いでいます。豆の引っ掛かりなどは全くありません。芯の振れもないこの状態こそ、元の箱型のケースでは発揮されない、F101の刃の持つ本来の力が、100%引き出されていると言っても過言ではありません。

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

 前回わかっていたけれどやらなかった」「やりたかったけれど、コスト面から非現実的だった」、しかし、こうしたものは実際に存在することが重要で、お金を出しても存在しないのと、たとえ非現実的な金額であっても、実際に存在するのとでは、大きく違うものと思いますといったことを書きました。

アルミのムク材から削り出した本体
刃から握り玉まで一体の継ぎ目のないステンレス回転軸
高性能ベアリングを上下に配置した回転保持部
洗いやすく、静電気の発生しにくい厚底のガラス受け皿

このミルは、純粋に持つ喜びを満足させてくれます。


この世の中のどこかにいらっしゃる、価値観を共有した人のための灯の種火が、今ここに誕生しました。